【映画コラム】ユーモアと悲哀を感じさせるロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
2014年3月1日
頑固な老父とその父に反発する息子が旅を通して親子の絆を取り戻していく様子を描いたロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』が2月28日から公開された。
監督は『アバウト・シュミット』(02)『サイドウェイ』(04)『ファミリー・ツリー』(11)など辛口の人間喜劇を得意とするアレクサンダー・ペイン。ボブ・ネルソンの名脚本を得た本作でも、ユーモアと悲哀を感じさせるどこか憎めない人物たちを描いている。
モンタナで暮らすウディ(ブルース・ダーン)は、懸賞に当選し100万ドルがもらえると信じ込み、はるか遠いネブラスカまで歩いてでも賞金を受け取りに行くと言い出す。
大酒飲みで頑固者、しかも少しぼけが始まった父とは距離を置いていた次男のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、偽の懸賞であることを父に納得させるため、仕方なくネブラスカまで付き合うことにする。だが旅の途中、ウディの故郷に立ち寄ったデイビッドは両親の意外な過去を知ることになる。
まさに老いさらばえたウディを演じたダーンは1960年代から活躍している名優。本作でカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞し、アカデミー賞でも主演男優賞の候補になったが、彼の名演技を引き出したのは、見事な“受けの演技”を披露したコメディアンのフォーテに他ならない。
2人が車で旅するモンタナ州ビリングスからネブラスカ州リンカーン間は、ワイオミング州、サウスダコタ州を経由して約1500キロに及ぶ。日本では青森市から山口市に相当する距離だという。
本作は今どき珍しいモノクロ撮影で、米中西部の寂れた田舎町を淡々と映していくが、そこに富と繁栄から見放されたアメリカの地方の厳しい現実をうかがわせ、現在のウディの姿とも重ねていく。そんな父を受け入れていくデイビッドの変化が本作の救いになっている。
同じくモノクロで撮られたピーター・ボグダノビッチ監督の『ラスト・ショー』(71)や『ペーパー・ムーン』(73)をはじめとする、1970年代のニューシネマをほうふつとさせるフェドン・パパマイケルのカメラワークが素晴らしい。
目まぐるしいアクション劇やCGを使った荒唐無稽なSF映画が主流を占める中、こうした地味だが味わい深い映画を見せられるとなんだかほっとする。(田中雄二)
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