【映画コラム】戦国時代のディスカッションドラマ『清須会議』
2013年11月2日
天下統一目前で、明智光秀の謀反により本能寺で命を落とした織田信長。彼の死後、家臣たちが清須城に集結し、織田家の後継者を決めるための話し合いをすることになる。“日本史上、初めて会議で歴史が動いた”と言われる数日間を、三谷幸喜の原作、脚本、監督で描く『清須会議』が9日から公開される。
本作は、戦国時代を舞台にしながら、合戦ではなく“会議”を中心に描いている。それこそがまさに三谷監督の真骨頂。と言うのも、彼は多様な人物が織り成す、会議=ディスカッションドラマが大好きなのだ。
特にシドニー・ルメット監督が陪審員を描いた『十二人の怒れる男』(57)がお気に入り。その影響で「もし日本にも陪審員制度があったら?」という設定で舞台劇「十二人の優しい日本人」(1991年に中原俊監督が映画化)の脚本を書いてしまったほどだ。本作の原作を書く際にも『十二人の怒れる男』のことが頭に浮かんだという。
さまざまな人物がそれぞれの言い分を述べるというせりふ重視の作劇法は、三谷監督のホームグラウンドである舞台劇に多く見られる。本作も演劇的な芝居を展開させながら、多彩な出演者による群像劇としての面白さを生み出している。
また、三谷監督は、俳優をイメージしながら脚本を書く、いわゆる“当て書き”をすることで知られる。本作でも、猪突(ちょとつ)猛進で単純な柴田勝家は役所広司、沈着冷静な頭脳派の丹羽長秀は小日向文世、用意周到な人たらしの羽柴秀吉は大泉洋、という具合に、自らが抱く歴史上の人物と現代の俳優のイメージを巧みに合体させた。
完成披露会見で、利に聡くいつも目が泳いでいる人物として描かれた池田恒興役の佐藤浩市と、ばか殿の典型として描かれた信長の次男・信雄役の妻夫木聡が「俺は監督からこんなふうに思われていたのかとショックを受けた」と口をそろえていたのが面白い。もうけ役は秀吉の大泉と彼の軍師、黒田官兵衛を演じた寺島進か。
三谷監督は大河ドラマのマニアを自認するが、くしくも来年の大河ドラマは岡田准一が官兵衛を演じる「軍師官兵衛」だ。本作で官兵衛と彼を取り巻く人々についての予習をしておくのもまた楽しい。(田中雄二)
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