【映画コラム】熟練の映画監督スピルバーグの職人技が堪能できる『ブリッジ・オブ・スパイ』
2016年1月8日
スティーブン・スピルバーグ監督の最新作『ブリッジ・オブ・スパイ』が公開された。主演のトム・ハンクスは、『プライベート・ライアン』(98)『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)『ターミナル』(04)に続く、スピルバーグ作品への出演となった。
映画の舞台となるのは、米ソ冷戦下の1950年代後半から60年代前半。弁護士のジェームズ・ドノヴァン(ハンクス)は、保険の分野でキャリアを積んできたが、ソ連のスパイであるルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護を引き受けたことから、思いがけず国際交渉の場に足を踏み入れることになる。
実話を基にした本作は、緊迫の国際交渉を、ドノヴァンというごく普通の男を主人公にして描くという少々意外な展開をみせる。また、ライランスが抜群の存在感を示したアベルの風貌も、およそスパイらしからぬもので、本作の面白さは、まずは意外性から生じると言ってもいいだろう。
スピルバーグは「原作を読んで、法的なドラマとスリラー、歴史大作の要素が含まれたストーリーと、直感と正義を信じて難事をやり遂げたドノヴァンの人物像に心を動かされた」と語っているが、実話を基に、複数のドラマを同時進行で見せるという多重構造は『ミュンヘン』(05)や『リンカーン』(12)の系譜に連なる。
さらに、交渉に関するスリリングな描写と心温まるドノヴァン家の姿を対照的に見せるスピルバーグの熟練技に、コーエン兄弟の脚本によるシニカルな味つけと、時にはコミカルにさえ映るハンクスの人間味あふれる演技が加わり、重層的な面白さを持った映画に仕上がった。
映像的には、アベルが拘束されるまでを描くオープニングシークエンスの緊張感、冷戦時代のベルリンの再現などが印象に残る。工事中のベルリンの壁=鉄のカーテンが映るシーンもあるが、実はこのシーンがラストに重要な意味を持つ。ぜひ映画館で確かめてほしい。
熟練の映画監督スピルバーグの職人技が堪能できる本作のタイトルは、実際に捕虜の交換が行われた東西ベルリンの境界であるグリーニケ橋を指し、ドノヴァンの交渉が米ソの懸け橋になったという意味も含まれている。(田中雄二)
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