【映画コラム】若手俳優たちを得て作られた新機軸の青春群像時代劇『合葬』
2015年9月26日
幕末、彰義隊に入隊し、上野戦争に巻き込まれた三人の青年の皮肉な運命を描いた杉浦日向子の同名漫画を映画化した『合葬』が公開中だ。
鳥羽・伏見の戦い後、将軍・徳川慶喜の警護と江戸市中の治安維持を目的として結成された「彰義隊」の存在は、京都の「新選組」や会津の「白虎隊」に比べると語られることは極めて少ない。
原作者の杉浦も彰義隊を題材にしたことについて「白虎隊や新選組は有名なのに、同じように若い命を散らした、他の隊は知られてない、これは不公平である、という発想でして。その敗者復活戦で、彰義隊を選んだのは、単なる“地元根性”で、タイガース、ドラゴンズ、カープのファンの人には分かってもらえると思います」とユニークな表現でその理由を記している。
その彰義隊には、武士ではない普通の市民や若者も数多く参加していたという。本作の主役となる三人、自らの意思で彰義隊に入隊する極(柳楽優弥)、養子先から追い出され、何となく入隊してしまう柾之助(瀬戸康史)、彰義隊に異を唱えながらも加わらざるを得なくなる悌二郎(岡山天音)は、いずれも架空の人物で、彼らの三者三様の姿には“時代の波に翻弄される若者”という、いつの時代にも共通する青春像が象徴されている。
その意味で本作は昔ながらの時代劇とは一線を画す。30歳の小林達夫監督が、同じく杉浦原作の『百物語』を思わせる怪異談を織り交ぜながら、柳楽、瀬戸、岡山、そして門脇麦、桜井美南、藤原令子といった若手俳優たちを得て作り上げた新機軸の青春群像時代劇だとも言えるだろう。若い者が時代劇なんて…と色眼鏡で見ては駄目。時代劇の衰退が叫ばれる今だからこそ、その新たな可能性を示す意味でもよくぞ作ったと称賛したい。(田中雄二)
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