【映画コラム】“私映画的“な色合いがとても強い『ムーンライト』
2017年4月1日
今年度のアカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞を受賞した『ムーンライト』が公開された。人気スターのブラッド・ピットが、黒人奴隷の受難を描いた『それでも夜は明ける』(13)に続いてプロデュースした作品である。
マイアミの黒人コミュニティ(貧民街)を舞台に、主人公シャロンの成長過程を、少年時代、高校時代、成人の三段階で描いた本作は、いじめ、麻薬中毒の母、貧困、親友のケビンに抱く思慕などを見せながら、「自分は一体何者なのか…」「自分の居場所は…」と悩むシャロンが、アイデンティティーを探る様子を描いていく。
そんな本作の登場人物はほとんどが黒人なのだが、特殊な技術で色を加工し、まさに黒光りする肌を強調した色彩が印象に残る。
ところで、監督・脚本のバリー・ジェンキンスと原案のタレル・アルバン・マクレイニーはどちらも黒人で、偶然にも同じ公営住宅で育ち、本作の撮影は主に同地で行われたという。
また、麻薬ディーラーをしながら、シャロンを庇護するという異色の存在であるフアン(助演賞を受賞したマハーシャラ・アリ)のモデルとなる人物も実際にいたというし、マクレイニーは自らがゲイであることを認めている。いわばシャロンは監督と原作者の分身であり、本作は“私映画的“な色合いがとても強いのだ。従って万人が共感できる映画だとは言い難いところがある。
それは例えばこんなシーンに象徴される。ファンをほうふつとさせる麻薬ディーラーになった成人後のシャロン。だが筋骨隆々の彼の目には少年時代の面影が宿っている。そんなシャロンが再会したケビンと互いに交わす妖しい視線…。このむくつけき男同士の“静かなラブシーン”には、何か見てはいけないものを見てしまったような、気まずさを感じさせられた。
ところが、そう感じることがすでに差別意識なのか…などとも思わされ、こうしたシーンから人種やセクシュアリティーの問題を喚起させるところに本作の存在意義があるのかもしれないと思い直した。
とすれば、今年度のアカデミー賞は、図らずも本作と娯楽作の『ラ・ラ・ランド』が賞を争う形になったが、そこにアメリカ映画の本分である価値感の多様性が示されていたとも考えられるのだ。(田中雄二)
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