【映画コラム】緩さが心地よいロードムービー『ロング・トレイル!』
2016年7月30日
ロバート・レッドフォードとニック・ノルティという名優同士の共演による、実話を基にしたロードムービー『ロング・トレイル!』が公開された。
このところスランプ気味の紀行作家ビル(レッドフォード)は、現状打開を狙って、北米有数の自然歩道アパラチアン・トレイル(全長3500キロ!)の踏破を思いつく。妻のキャサリン(エマ・トンプソン)は、渋々ながら「同行者付き」という条件を出して許諾するが、ビルの誘いに応じる者はいなかった。そんな中、話を聞きつけたトラブルメーカーの旧友カッツ(ニック・ノルティ)が同行者に名乗りを上げる。
レッドフォードとノルティは『ランナウェイ/逃亡者』(12)でも学生時代の友人役で共演していたが、先にスターになったレッドフォードの方がずっと年上なのでは? と思って調べてみると、現在レッドフォード79歳、ノルティ75歳で、たった四つしか違わなかった。なるほどこれならバディ(相棒)映画として十分に成立するわけだ。
そして、いまだに二枚目の面影を残し、監督業などでも成功したレッドフォードが、作家として名を成した主人公を演じ、飲酒癖や薬物依存などいろいろあって、今はふくぶくに太ったノルティが、問題を抱える相棒役を演じることで、二人のキャリアと役柄が重なって見えるところが面白い。
さらに、見た目も性格も全く違う二人が呉越同舟の旅をしながら人生を見詰め直すというのは、よくあるパターンだが、本作が他の映画と大きく異なるのは、二人が醸し出す“緩さ”が前面に押し出されているところだろう。
実際のアパラチアン・トレイルは、アパラチア山脈の稜線や谷に沿い、アップダウンを繰り返しながら半年をかけて縦走する過酷なもので、大自然の厳しさや体力の衰えなどを強調して描けば深刻になりかねない題材なのだが、あえて困難を見せないところが本作のミソなのだ。
その結果、見る者を「ちょっと山歩きでもしてみようか」という気分にさせる。とは言え、学生時代に、レッドフォードは野球、ノルティはアメリカンフットボールの選手として鳴らしただけに、老いたりとはいえ運動神経はいいのだろう。くれぐれも安易にまねなどしないように。(田中雄二)
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