【映画コラム】アメリカが抱えるジレンマを如実に反映した『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』
2016年3月26日
スーパーマンの実写シリーズの再始動作品『マン・オブ・スティール』(13)の続編に当たる『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』が公開された。

(C) 2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
前作で、異星人による地球侵略を防いだスーパーマン(ヘンリー・カビル)。だが彼の超人的なパワーは、皮肉にも街を破壊し、甚大な被害を与えてしまう。バットマンとして悪と戦ってきたブルース・ウェイン(ベン・アフレック)は、そんなスーパーマンに強烈な憎しみを抱くようになり、彼がもたらす脅威を除こうと考える。
本来ならば、両雄が同一画面に存在するだけでワクワクするはずなのに、本作はジレンマやトラウマを抱える二人の内面を描くことに腐心し、今の時代での正義やヒーローの存在価値まで問うような描き方をしているから、単純な夢の対決を望むと肩透かしを食らう。
これでは、その昔、大江健三郎が書いた『破壊者ウルトラマン』のようではないかと、あぜんとさせられるのだが、その奥には、2001年にアメリカを襲った同時多発テロ事件の悪夢が大きく影響しているのだろう。スーパーマンによって破壊される高層ビルはワールドトレードセンターをほうふつとさせるし、破壊された街の生々しい記憶、誰も助けに来ない現実を考えれば、もはやアメリカ国旗を持って笑顔で空を飛ぶスーパーマンを素直にたたえられるはずもない。
また、スーパーマンの強大な力への人々の恐れがやがて排除へと転化していく構図は、悪党を倒すために雇われた保安官が、力を持ち過ぎて町民から裏切られるという西部劇『ワーロック』(59)にも似ている。その根底には、自分の身は自分で守るというアメリカの自警の精神があり、本作のバットマンはその自警の象徴として描かれている。
それ故、本作は、自らを矛盾した存在だと考えて悩む両雄よりも、ジェシー・アイゼンバーグが演じる悪役レックス・ルーサーの方が生き生きとしている。SF大作でありながら、現代のアメリカが抱えるジレンマを如実に反映しているとも言えるのだ。
ところで本作には、唐突な形でワンダーウーマン(ガル・ガドット)も登場するが、これはDCコミックスのヒーローを集めた「ジャスティス・リーグ」映画化への布石。つまり今回見せられた両雄の壮大なけんかはその序章に過ぎなかったのだが、今後バットマンやスーパーマンはどう描かれていくのだろうかと、いささか考えさせられる。(田中雄二)
-
2016年3月19日
【映画コラム】広瀬すずの切れ味鋭い動きに魅了される『ちはやふる-上... -
2016年3月12日
【映画コラム】久しぶりに『男はつらいよ』の味わいがよみがえった『家... -
2016年3月5日
【映画コラム】橋本環奈参上! 角川アイドル映画の伝統をよみがえらせ... -
2016年2月27日
【映画コラム】2時間48分を飽きさせないタランティーノの力業『ヘイト... -
2016年2月20日
【映画コラム】季節外れのクリスマスプレゼント『クーパー家の晩餐会』 -
2016年2月13日
【映画コラム】上質な舞台劇を見ているような気分になる『スティーブ・... -
2016年2月6日
【映画コラム】明るく前向きな主人公に魅了される『オデッセイ』 -
2016年1月30日
【映画コラム】悪魔との取引についての物語『ドリームホーム 99%を操... -
2016年1月23日
【映画コラム】手に汗握りながら、それでも目が離せない『ザ・ウォーク』 -
2016年1月16日
【映画コラム】見ながら幸せな気分になってくる『パディントン』 -
2016年1月8日
【映画コラム】熟練の映画監督スピルバーグの職人技が堪能できる『ブリ... -
2015年12月30日
【映画コラム】2015年映画ベストテン -
2015年12月26日
【映画コラム】熱き“ロッキー魂”の継承がうれしい『クリード チャンプ... -
2015年12月19日
【映画コラム】フォースの力を自分の目で確かめよ!『スター・ウォーズ... -
2015年12月12日
【映画コラム】甘さと厳しさ、悲劇と喜劇の要素を併せ持った『母と暮せば』 -
2015年12月5日
【映画コラム】“日本のシンドラー”とは何者だったのか『杉原千畝 スギ... -
2015年11月28日
【映画コラム】ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの集大成『007 ス... -
2015年11月21日
【映画コラム】ユニークなドキュメンタリー『美術館を手玉にとった男』... -
2015年11月14日
【映画コラム】真実とうその境界線はどこにある?『ローマに消えた男』