【映画コラム】現代の社会派エンターテインメント作『人類資金』

2013年10月19日 / 18:11

(C) 2013「人類資金」制作委員会

 原作・福井晴敏、監督・阪本順治という『亡国のイージス』(05)のコンビが再び手を組んだ『人類資金』が19日から全国公開された。

 本作は、戦後、GHQ(連合国軍総司令部)に押収され、ひそかに運用されてきたとされる旧日本軍の“M資金”をめぐるエコノミックサスペンス。

 M資金詐欺をなりわいとする主人公・真舟(佐藤浩市)が、謎の男M(香取慎吾)からM資金の強奪を依頼され、世界規模のマネーゲームに巻き込まれていく様子を描きながら、資本主義の構造や紙幣の価値に疑問を投げ掛けていく。

 本作で投資顧問会社代表を演じた仲代達矢は「昔は、佐藤(浩市)さんのお父さんの三國連太郎さんと一緒にやらせていただいた『金環蝕』(75)のような、政治を徹底的にたたいた社会派映画が多かったし、映画が娯楽と社会派に分かれてもいた。その点で『人類資金』はエンターテインメントな部分も含めて社会派という意味を持っている映画だと思う」と語り、「社会派の素晴らしい作品を作りながら、同時に見る人を楽しませることができた監督」として山本薩夫の名を挙げた。

 山本監督は、先ごろ亡くなった山崎豊子原作の『白い巨塔』(66)、『華麗なる一族』(74)、『不毛地帯』(76)を映画化し、政界、財界、医学界における諸悪の根源や陰謀を告発。鋭い問題提起を行う反面、権力のからくりを暴く謎解き、さまざまな人間模様と彼らが抱く欲望、そして人がなぜ権力や地位や富に魅せられるのかも面白く描いた。仲代は『華麗なる一族』と『不毛地帯』に出演している。

 ほかにも、石川達三原作の『金環蝕』では構造汚職を摘発し、小林久三原作の『皇帝のいない八月』(78)では自衛隊のクーデターを描いた山本監督は、仲代が語るように、反体制的なテーマを扱いながら決して娯楽色も忘れない名監督だった。

 近年、「白い巨塔」(03)と「不毛地帯」(09)は唐沢寿明主演で、「華麗なる一族」(07)は木村拓哉主演でドラマ化されたのでそちらを見た人は多いと思うが、『人類資金』を見た後、あらためて社会派映画の本家である山本作品に触れてみるのも一興だ。

 ちなみにM資金は、『白い巨塔』、『華麗なる一族』、『不毛地帯』に出演した田宮二郎の自殺の原因として話題に上るなど、多くの事件やうわさを生んだが、今は一種の都市伝説になっている。(田中雄二)


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