【映画コラム】“大人の映画”という印象が強く残る『夏の終り』

2013年8月31日 / 19:02

(C) 2012年映画「夏の終り」製作委員会

 瀬戸内寂聴の自伝的小説を映画化した『夏の終り』が31日から公開された。一人の女と二人の男の、センセーショナルな愛の物語だ。

 着物の染色で生計を立てている知子(満島ひかり)は、妻と自分との間を行き来する年上の作家・慎吾(小林薫)と暮らしている。ある日、知子はかつての恋人・涼太(綾野剛)と再会し、再び関係を持つ。慎吾と出会う前の知子には、夫と娘を捨てて涼太と駆け落ちした過去があったのだ。

 慎吾と涼太は互いの存在に苦しみ、嫉妬しながらも、知子を通じて不思議な絆を感じている。彼らに、夫と愛人の暮らしを認知している慎吾の妻(声のみ登場)を加えると、何とも奇妙な四角関係が浮かび上がってくる…。満島、綾野、小林が三者三様の好演を見せる。

 とくると、未見の人はドロドロなイメージを抱くと思われるが、実のところ、本作はあまりドロドロしたものを感じさせない。その理由としては、ある覚悟を持って生きる潔い女性として知子を捉えている。登場人物に対して一定の距離を置き、淡々と描いている。過激な性描写がない。などが挙げられるが、全体的に“大人の映画”という印象が強く残る。

 それは、本作の時代設定が昭和30年代初頭であることとも深く関係している。現在、映画の原作は漫画が基になることが多いが、昭和30年代は映画と文学の蜜月時代であり、さまざまな文学作品が映画化され“文芸映画”と呼ばれるジャンルが確立されていた。そこには小津安二郎や成瀬巳喜男といった名匠が存在し、彼らは大人の映画を撮り続けていたのだ。本作は、熊切和嘉監督が、一生懸命に小津や成瀬の世界に近づこうとしている姿がうかがえる。特に、知子がなりわいとする染色の技法を生かしたオープニングタイトルは、かつての文芸映画のそれをほうふつとさせる。

 また、現在は『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)のように、CGで昔の情景を再現するのが主流だが、本作は、淡路島を中心としたロケやセットで、昭和30年代の横浜や新宿の町並みを再現した。ここにも熊切監督らスタッフのこだわりが表れている。(田中雄二)

公開情報
『夏の終り』
出演:満島ひかり、綾野剛、小林薫
監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:『夏の終り』瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
上映時間:114分
配給:クロックワークス
8月31日(土)有楽町スバル座 ほか全国ロードショー


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