【映画コラム】戦争の無意味さや無慈悲、残酷をリアルに描いた『フューリー』
2014年12月1日
たった5人で300人のドイツ軍に挑んだ男たちの壮絶な戦いと熱き絆を描く『フューリー』が11月28日から公開された。主演のブラッド・ピットが製作総指揮を兼ね、元軍人のデビッド・エアーが監督した本格戦争映画だ。
舞台は、第2次大戦末期のヨーロッパ戦線。“フューリー(激しい怒り)”と名付けた1台の戦車に乗り込み、ドイツ国内を転戦する歴戦の男たちがいた。
ウォーダディー(=戦争おやじ)の異名を持つリーダーのコリアー軍曹(ピット)、砲手のバイブル(シャイア・ラブーフ)、操縦士のゴルド(マイケル・ペーニャ)、装填手のクーンアス(ジョン・バーンサル)からなるこのつわものチームに、18歳の新兵ノーマン(ローガン・ラーマン)が加わったことで波紋が起きる。
コリアーが、戦車を“家”だと表現するように、戦場で苦楽を共にする彼らは一種の家族のようにも見える。特にコリアーとノーマンは次第に“親子”のような様相を呈し始め、過酷な戦場がノーマンの大人になるためのイニシエーション=通過儀礼の場となる。
俳優はそれぞれ熱演を見せるが、中でも、歯を抜き、顔に傷をつけて撮影に臨んだというラブーフが素晴らしく、『トランスフォーマー』シリーズなどとは違った演技派としての顔を見せる。
米軍のシャーマン対独軍のティーガーという、本物の戦車を使ったバトルアクションがすさまじい。凄惨(せいさん)を極める戦闘シーンを見ていると、果たして全てをリアルに見せることがいいことなのかという疑問も湧くが、コリアーが「理想は平和だが歴史は残酷だ」と語るように、本作はアメリカの正義を描くのではなく、戦争そのものの無意味さや無慈悲、残酷をリアルに描いている。その意味では従来の戦争映画とは一線を画す。(田中雄二)
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