【映画コラム】“女優・大島優子”にとってエポックメーキングな作品になった『ロマンス』
2015年8月29日
大島優子のAKB48卒業後、初の主演映画『ロマンス』が29日から公開された。本作は、タナダユキ監督にとっても7年ぶりのオリジナル作品となる。
東京と箱根を結ぶ特急ロマンスカーのアテンダント北條鉢子(大島)は、ひょんなことから映画プロデューサーを名乗るうさんくさい中年男、桜庭(大倉孝二)と一緒に箱根を旅することに…。
本作は、箱根湯本、小田原城、箱根登山鉄道、大涌谷、玉子茶屋、芦ノ湖、仙石原、関所跡など、箱根周辺の景勝地を舞台に、年の離れた二人のたった1日の出会いと別れを描いているのだが、普通の観光映画とは違い、ほとんどが曇り空の下で展開し、富士山も見えない。
始めは少々意外な感じもするが、映画が進むに連れて、実は鉢子は母親や恋人との関係に悩み、桜庭も仕事に失敗し追われる身であるということが分かってくると、この天気は二人の心理状態を象徴しているのだと思えてくる。
また、タナダ監督は小柄な大島と長身の大倉という見た目とは対照的に、大人っぽい鉢子と子どもっぽい桜庭というキャラクター設定にすることで、AKB48在籍時から“しっかり者”の部分を感じさせた大島の個性をうまく引き出している。そんな本作は、演技という面から見ても“女優・大島優子”にとってはエポックメーキングな作品となるだろう。
ところで、本作には映画好きなら思わずニヤリとするようなシーンがある。桜庭が鉢子の服を選ぶ時に「『マイ・フェア・レディ』(64)みたいだね」と言うし、関所跡では人形の指に自分の指を合わせようとして「『E.T.』(82)だよ」と言う。ところが鉢子はどちらも知らずにきょとんとしている。「本当に最近の若い子は映画を見ないから…」という桜庭の嘆きには「昔のようにもっとたくさんの人たちに映画を見てほしい」というタナダ監督自身の思いが反映されているという。
さらに、桜庭が出資者に「映画には夢がある」と力説する回想シーンや「失敗してもまた映画が作りたくなる」と寂しそうに鉢子に語るシーンも心に残る。というわけで、タナダ監督が二人の珍道中の所々に潜ませた“映画愛”もお見逃しなく。
旅を終えても二人が抱える問題は何も解決しはしないが、心の持ちようは前向きなものに変わったように見える。佐藤現プロデューサーの「いろいろままならないことはあるけど、それでも生きていこうよというテーマが込められている」という言葉を聞くと、映画を見ることも旅をすることと似ているのかもしれないと感じさせられる。(田中雄二)
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