【映画コラム】日米の映画交流の中から生まれた『許されざる者』

2013年9月7日 / 20:29

(C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 クリント・イーストウッドが監督・主演し、作品賞など計4部門でアカデミー賞を受賞した『許されざる者』(92)。この名作西部劇を、明治初頭の北海道に舞台を移してリメークした日本版『許されざる者』が13日から公開される。監督・脚本は『フラガール』(06)『悪人』(10)などの李相日。オリジナルのイーストウッドの役どころを渡辺謙が演じている。

 かつて“人斬り十兵衛”と恐れられた釜田十兵衛は、妻と出会い刀を捨てた。しかし、妻亡き後は、幼い子供たちと共に極貧生活を送っていた。そんな中、昔の仲間・金吾が“賞金首”の話を持って訪ねてくる。だが、賞金首を追う彼らの前に、警察署長の一蔵が立ちはだかる。

 本作の時代設定はオリジナルとほぼ同時期の19世紀後半。南北戦争と戊辰戦争、インディアンとアイヌ民族の存在を重ね合わせることで西部劇からの移行に成功した。そして内戦の勝者と敗者、開拓者と先住民との対立、無法と法のはざま、善悪を超えた人間の業や恨み、暴力の連鎖などのテーマを、オリジナルよりも鮮明に描いている。

 また、かつての冷酷なアウトロー(イーストウッド)を幕府側の残党(渡辺)に、保安官(ジーン・ハックマン)を警察署長(佐藤浩市)に、往年のガンマン(リチャード・ハリス)を元武士(國村隼)にと、人物設定や配役もうまく置き換えている。いわば本作は、黒澤明監督の時代劇『七人の侍』(54)をハリウッドが西部劇の『荒野の七人』(60)としてリメークした逆のパターンに当たるわけだ。

 ところで、イーストウッドと日本の縁は深い。彼の出世作はセルジオ・レオーネ監督のマカロニウエスタン『荒野の用心棒』(64)だが、この映画の原典は黒澤監督の『用心棒』(61)だ。イーストウッドは“最後の西部劇”と銘打った『許されざる者』のエンドクレジットで『ダーティハリー』(71)のドン・シーゲル監督と共にレオーネに献辞を捧げたが、「クロサワがいなかったら今の自分はない」とも語り、日本に対して特別な思いを抱いていることを明かした。

 その思いが、第2次世界大戦における硫黄島の戦いを日米双方の視点から描いた『父親たちの星条旗』(06)と『硫黄島からの手紙』(06)を監督することにつながる。そして後者に出演した渡辺との縁もあり、イーストウッドは今回のリメークを快諾したという。日本版『許されざる者』は、イーストウッドを中心にした日米の映画交流の中から生まれた作品でもあるのだ。(田中雄二)

 ■公開情報
『許されざる者』
9月13日(金)新宿ピカデリー他 全国ロードショー
製作・配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:www.yurusarezaru.com


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