【映画コラム】“昭和モダン”の雰囲気を再現した『小さいおうち』
2014年1月25日
山田洋次監督の通算82本目の監督作、昭和初期と現代が交差する小体なミステリー『小さいおうち』が25日から全国公開された。
昭和初期、東京の郊外にたたずむ赤い屋根の“小さいおうち”平井家でお手伝いさんとして働いたタキ(黒木華)はある恋愛事件に遭遇する。そして、その時タキが封印した秘密が、60年の時を経て、現代に生きる青年(妻夫木聡)の手でひも解かれていく。
現代の若者が身内の過去(戦前、戦中)を探り、その秘密を明かすという意味では『永遠の0』にも通じるものがあるが、本作の強みは山田監督がその時代を生で知っているという点にある。
山田監督は、少年時代の実体験を基に、当時の風俗や流行、言葉遣いなどを映画に描き込み、和洋折衷の文化が花開いた“昭和モダン”の雰囲気を主にセットで再現した。戦後70年近くがたった今、こうした芸当ができる監督はほかにいないだろう。
また本作の前半は、雪深い東北の村から憧れの東京に出てきたタキにとって平井家での奉公はつらいどころか楽しい日々だった、昭和初期は決して暗黒の時代ではなくモダンでおしゃれな一面もあった、という目新しい視点で描かれ、見ているこちらもその明るさにつられてうきうきしてくるところがある。
ところが戦雲が近づくに連れて世相は暗転し、やがて戦争がそれらをすべて飲み込み、無にしてしまう。山田監督は市民生活の変転を通して戦争のむなしさを描きたかったに違いない。
本作のもう一つの注目点は、山田監督がこれまで封印してきた性の問題を取り上げたばかりでなく、不倫や同性愛までも描き込んでいるところにある。女性の心理描写という点では中島京子の原作小説はもちろん、共同脚本の平松恵美子の果たした役割も大きいと思われる。
80歳を過ぎてなお新境地を開拓し、作風にみずみずしさすら感じさせる山田監督。『ペコロスの母に会いに行く』の森崎東監督同様、老いてますます盛んなそのパワーには恐れ入るばかりだ。(田中雄二)
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