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ナオミ・ワッツがダイアナ元英皇太子妃を演じた『ダイアナ』に続き、今年の晩秋は、実話を基に、実在の人物を主人公にした映画の公開が目白押しとなる。
ネタ不足に悩む映画界にとって「事実は小説よりも奇なり」の面白さを持つ伝記物はおいしい素材だが、劇映画はドキュメンタリーとは違い、事実をそのまま映すことはできない。そこで事実と創作を併せた独自の物語が生まれ、それを演じる俳優の力が必要となる。今回は公開間近の多彩な“伝記映画”をご紹介しよう。
26日から公開されるドイツ映画『ハンナ・アーレント』の主人公ハンナは、第2次大戦中、ナチスの強制収容所から脱出し、アメリカへ亡命したドイツ系ユダヤ人の女性哲学者。
彼女は、1960年代初頭にイスラエルで行われたナチスの重要戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判に立ち会い、リポート集『イェルサレムのアイヒマン』を発表する。ところが、アイヒマンを思考することを放棄して命令に従っただけの平凡な小役人とし、ユダヤ人自治組織の指導者がアイヒマンに協力していたとも記したため、ユダヤ人社会から激しいバッシングを受けることになる。
ハンナは「大切なのは思考することだ」と説くが、彼女のリポートは、情を抜きにして理屈や哲学的な思考で物事を捉えがちなインテリの功罪も示している。女性監督のマルガレーテ・フォン・トロッタが演出し、バルバラ・スコバがハンナを熱演。アイヒマンの裁判時の実写フィルムの挿入も効果を上げている。