【映画コラム】 ウイスキーを介して厳しい現実と奇跡をブレンドした『天使の分け前』
2013年4月6日

(C)Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Urania Pictures, France 2 Cinéma, British Film Institute MMXII
舞台はスコットランド。暴力事件を起こし、社会奉仕活動を命じられたロビーは、現場の指導者でウイスキーの愛好家でもあるハリーと出会い、自分にテイスティングの才能があることを知る。そして、たる入りの超高級ウイスキーがオークションに出品されることを知った彼は、人生の大逆転を懸けて仲間たちと共に一世一代の大勝負に出る。
若者の失業問題という厳しい現実と寓話的な奇跡を、スコッチウイスキーを介してブレンドしたコメディー『天使の分け前』が13日から公開される。監督のケン・ローチは、常にイギリスが直面する社会問題を描き続けてきた。今回も社会の底辺で懸命に生きる人々の姿を、ユーモアを交えながら鋭い視点で描いている。
スコッチウイスキーは、ロビーのような地元の貧しい若者にとっては無縁の存在だが、世界中の愛好家が行うオークションでは途方もない高値が付くという皮肉な側面を持つ。そして目に見えないところで価値が決定される曖昧模糊(もこ)とした部分に、本作のような寓意や皮肉が入り込む隙間があるのだ。劣悪な環境に育ったロビーにテイスティングという特異な才能を与える設定が心憎いし、ロビーのような恵まれない若者には、才能が開花するきっかけを与えるハリーのような大人が必要なのだと感じさせる。
本作のタイトルとなった“天使の分け前”とは、ウイスキーなどがたるの中で熟成される間に、年に2%ほど蒸発して失われる分のこと。年数を重ねるごとにウイスキーは味わいを増し、それとともに天使の分け前も増していくのだとか。もちろん本作にも飛び切りの“分け前”が用意されているのだが、それは見てのお楽しみ。ケン・ローチ作品によく登場するスコットランドなまりの英語も聞き物だ。(田中雄二)
公開情報
4月13日(土)より銀座テアトルシネマほか全国順次ロードショー
配給:ロングライド
監督:ケン・ローチ
出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショー
2012年/イギリス・フランス・ベルギー・イタリア/101分/35mm/1:1.85/ドルビーデジタル、カラー
原題:THE ANGELS’SHARE
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