【映画コラム】年輪を重ねたレッドフォードの魅力がにじみ出る『ランナウェイ/逃亡者』

2013年10月5日 / 20:28

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 ロバート・レッドフォードが『大いなる陰謀』(07)以来5年ぶりに監督・主演した社会派サスペンス『ランナウェイ/逃亡者』が5日から公開された。

 本作は、1960年代後半から70年代にかけて、過激な反戦運動を行った実在の団体ウェザーマンの活動とその後を下敷きに書かれた原作を映画化した。

 現在は弁護士ジム・グラントとして11歳の娘と穏やかに暮らすウェザーマンの元幹部ニック・スローン(レッドフォード)。だが当時の仲間の逮捕をきっかけに警察に追われる身となる。物語は彼が過去の殺人容疑を晴らすため、今も潜伏生活を送るかつての仲間たちと接触する旅を中心に展開していく。

 レッドフォードの過去の主演作では『候補者ビル・マッケイ』(72)や『大統領の陰謀』(76)といった政治的な背景や意図を持った系譜に属するし、逃亡劇としては『コンドル』(75)をほうふつとさせるところもある。

 だがレッドフォードは、主人公ニックの姿に『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンを重ね合わせたという。「身分を偽り、娘を持ち、善人としての人生がありながら、過去の苦しみが彼を悩ませる。果たして彼はどう決着をつけるのか」と。これは日本で言えば全共闘世代の学生運動や平和運動に対する複雑な思いとも重なるだろうか。

 また、ニックがかつての仲間の一人と再会する場面では、カナダのバンクーバーで開催された日本の写真家・石内都さんの「広島の被爆をテーマにした写真展」が映る。ここにもレッドフォードの反戦への思いが垣間見られるし、仲間たちのジーンズを基調としたファッションにも世代的なこだわりが表されている。

 また本作は、サスペンスとしての面白さに加えて、レッドフォードと絡む多彩な俳優たちの演技も見どころとなる。『華麗なるヒコーキ野郎』(75)以来の共演となったスーザン・サランドン、ニック・ノルティ、リチャード・ジェンキンス、サム・エリオット、そしてジュリー・クリスティといった大ベテランがウェザーマンの旧メンバーを演じ、そこに若手のシャイア・ラブーフとアナ・ケンドリックが加わる。特にラブーフが演じた真相を探る新聞記者役は『大統領の陰謀』でレッドフォードが演じた役柄とも通じるところが興味深い。

 かつての二枚目スター、レッドフォードの顔や手に刻まれた多くのしわを見ると感慨深いものがあるが、70歳を過ぎてなお、こうした役が演じられることに驚く。実際、60年代から2010年代まで“六つのディケイド(10年紀)”にわたって、スター、監督、プロデューサーとして活躍し続け、若手監督の登竜門となったサンダンス映画祭(名称は『明日に向って撃て!』(69)で演じたサンダンス・キッドに由来)も主宰する。そうした彼の映画キャリアには感服するほかない。本作にはそんな彼の年輪を重ねた魅力がにじみ出ている。(田中雄二)

 公開情報
『ランナウェイ/逃亡者』
10月5日から新宿武蔵野館ほか全国公開。
公式サイト http://www.runnaway.jp/
配給/ショウゲート


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