【映画コラム】本作りに魅せられた男を描く『世界一美しい本を作る男-シュタイデルとの旅-』

2013年9月14日 / 15:08

ゲルハルト・シュタイデル

 ドイツのゲッティンゲンで小さな出版社を経営するゲルハルト・シュタイデルに密着取材したドキュメンタリー映画『世界一美しい本を作る男-シュタイデルとの旅-』が21日から全国順次公開される。 

 シュタイデル社は、書籍の編集からディレクション、レイアウト、印刷、製本、出版までを自社で行い、“本作り”への総合的なアプローチを実践している。

 社長のゲルハルトは、印刷機から出てくる写真や原稿を一枚一枚チェックする完璧主義者だが、決して社内にこもっているわけではない。ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ…と、世界中の顧客の元に足を運んで打ち合わせをする行動力もある。

 彼は、顧客にも忌憚(きたん)のない意見を述べ、デザイン、装丁、収録作品、使用する紙、インクの選定まで徹底的にこだわる頑固者だが、要は“いい本”ができればそれでいいと考えている。まさに“本作りに魅せられた男”なのだ。カメラは忙しく立ち回るシュタイデルの姿を追いながら、一冊の本が出来上がっていく工程を細かく見せる。

 これは、電子書籍やウェブの読み物があふれる時流に逆行するかのような時間と手間のかかる作業だが、日本でも電子辞書が全盛の時代に、あえて昔ながらの辞書作りを描いた『舟を編む』(13)が作られたように、アナログな作業を見直す風潮やぬくもりが感じられる手作りの物を求める傾向が増えているのも確かだ。シュタイデルの「本はいい匂いがしなければならない」という言葉がそれを象徴する。

 共同監督のゲレオン・ヴェツェルは、本作の前に、人気レストランに密着取材した『エル・プリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(11)を撮っている。どちらも職人たちの見事な仕事ぶりを描いた作品だ。ここに、日本のすし職人を描いた『二郎は鮨の夢を見る』(11)とニューヨーク・タイムズのファッションカメラマンを描いた『ビル・カニンガム&ニューヨーク』(10)という、今年公開されて話題となった2本のドキュメンタリーを加えてみる。

 すると、昔から数多く作られてきた、匠(たくみ)の技や職人の仕事を追った硬質のドキュメンタリーとは異なり、カラフルな映像とポップな視点からプロの仕事を捉えるという新たな流れが見えてくる。(田中雄二)


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