【映画コラム】アメリカ映画の底力を感じさせる『バリー・シール/アメリカをはめた男』
2017年10月21日
1970年代、大手航空会社のパイロットとして活躍し、その後、CIAから極秘密輸作戦のパイロットにスカウトされ、麻薬の密輸で巨万の富を得た男。その数奇な人生を、実話を基に映画化した『バリー・シール/アメリカをはめた男』が公開された。
トム・クルーズが主人公のバリー・シールを演じ、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)でもトムとコンビを組んだダグ・リーマンが監督を務めた。
そんな本作の一番の見どころは、トムが、操縦の天才で、機知にも富みながら、同時に愛嬌(あいきょう)があり、妻には頭が上がらない男を好演しているところ。それ故「ワルを、愛すべき、憎めない男として描く」という、一種のピカレスク(悪漢)ロマンとして仕上がっている。トムはお気楽で調子のいい男を演じると結構いい味を出すのだ。
また、パナマの独裁者ノリエガ将軍、コロンビアの麻薬組織メデジン・カルテルの幹部たち、バリーを悪の世界へといざなうCIA職員(ドーナル・グリーソン)など、実在の大悪党たちの姿がどこかコミカルに描かれているところも面白い。
とはいえ、本作にはレーガン政権の裏で、一体何が行われていたのかが明らかになるという怖さもあるのだが、こうした暴露ものを、ちゃんとエンターテインメントとして成立させてしまうところに、アメリカ映画の底力を感じさせられる。悪銭身につかずという落ちがつくところも、いかにもアメリカ映画らしい。
リンダ・ロンシュタットの「ブルー・バイユー」、ジョージ・ハリスンの「ワー・ワー」など、時代を表す曲の挿入も効果的だ。(田中雄二)
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