【映画コラム】日本の近代史を総括するドキュメンタリー映画『東京裁判』
2019年8月12日
ドキュメンタリー映画『東京裁判』(83)が、監督補佐・脚本の小笠原清らの監修のもとで修復され、4Kデジタルリマスター版として8月3日に公開された。
本作は、終戦後の昭和23年に行われた極東国際軍事裁判(通称、東京裁判)の模様を、アメリカの国防総省が撮影した膨大なフィルム(法廷のみならず、ヨーロッパ戦線や日中戦争、太平洋戦争などの記録も収められていた)を編集し、5年の歳月をかけて製作された。
また、裁判の内容に沿った事件や出来事を記録したニュース映画なども挿入し、明治以降、軍事国家となっていった日本の近代史を客観的かつ多角的な視点から総括していく。そして、戦争責任や、戦争と国家、あるいは個人との関係を問い掛けながら、戦勝国が敗戦国を裁く矛盾も鋭く突く。
本作は、その矛盾の原因として、冷戦による米ソ両国の日本に対する利害関係を浮かび上がらせたり、昭和天皇を政治的に利用しようとするアメリカの思惑などを露わにしていく。ここまで暴かれると、もはやこの裁判自体が茶番のように見えてくるところがある。
事実「この裁判を見せしめとして、今後二度と悲劇を繰り返すべからず」と論じた連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーが、朝鮮戦争での原爆使用論がもととなって解任されたり、日本の侵略を裁いたアメリカが、この後、朝鮮やベトナムで取った行動が、この裁判の曖昧さや矛盾を象徴しているとも言えるのではないだろうか。
本作の上映時間は4時間30分余に及ぶが、退屈するどころか、緊張感あふれる画面から目が離せなくなる。改めて映像が持つ力の強さを思い知らされる。監督は『人間の条件』(59)などで知られる小林正樹、音楽は武満徹、大ベテランの編集者・南とめが膨大な量のネガ編集を担当した。個性派俳優として知られた佐藤慶の感情を抑制したナレーションも絶品だ。それにしてもアメリカは、よくもこんな映像を大量に残していたものだと改めて思った。
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