【映画コラム】専業主婦の労働問題を“喜劇”の中で描いた『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』
2018年5月26日
山田洋次監督による『家族はつらいよ』シリーズの第3作『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』が公開された。第1作の熟年離婚、第2作の高齢者ドライバーや無縁社会に続いて、今回は専業主婦の労働問題を“喜劇”の中で描いている。
気遣いがなさ過ぎる夫・幸之助(西村まさ彦)の言葉に、日頃の不満が爆発し、家出をした妻・史枝(夏川結衣)と、一家の主婦がいなくなるという緊急事態に直面した平田家のいきさつは…。
今回の表向きの主役は、夏川演じる史枝だが、実は家族の絆を取り持つ次男・庄太(妻夫木聡)が裏の主役、というところに、山田監督ならではのストーリーテリングのうまさが感じられる。
また、タイトルの『妻よ薔薇のように』は、成瀬巳喜男監督の『妻よ薔薇のやうに』(35)から取られているし、劇中には、成瀬が映画化した林芙美子の『めし』の引用や、黒澤明監督の『生きる』(52)のパロディシーンもある。毎回、“違う役”で周造(橋爪功)の友人として登場する小林稔侍にも遊び心が感じられる。これらは山田監督なりの観客へのサービスだとも言えよう。
最近は、一つ年上のクリント・イーストウッドが映画を撮れば、負けじと山田洋次も撮るという感じである。80歳を超えてなお、これだけの映画が撮れるとは…。
庄太の妻の憲子を演じた蒼井優が「私は今回が一番好きです。舞台は日本なのに、何かヨーロッパの映画を見ているような気分になる、大人の色気のある映画だなあと思いました。こういう作品が見たかったけど、なかなかなかったなという感じです」と語るように、このシリーズは、回を追うごとに喜劇としての鮮度が上がってきていることにも驚かされる。(田中雄二)
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