【映画コラム】無性にハンバーガーが食べたくなる?『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

2017年7月29日 / 16:53

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 マクドナルドの誕生から拡大成長に至る歴史の裏側を描いた『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』が公開された。

 1954年、シェークミキサーのしがないセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)は、カリフォルニアでハンバーガーショップを営むディック&マックの兄弟と出会う。兄弟が考案、実践する“スピーディーシステム”に魅せられたクロックは、全米に店舗を展開する壮大なフランチャイズビジネスを思いつく。

 このように、本作はマクドナルドの創業者(=ファウンダー)は、一般的に知られているクロックではなく、今は“無名の人”となったディック&マックの兄弟だったという事実を明かす。

 では、兄弟とクロックの関係は…、そして兄弟からマクドナルドを“乗っ取り”、大成功を収めたクロックとは一体どんな人物だったのか、というのが見どころとなる。

 そこには、資本主義や競争社会を象徴するクロックと、理想家肌で昔かたぎの兄弟の対立が描かれ、見る者は複雑な思いを抱くことになる。

 例えば、兄弟がテニスコートに店の見取り図を描いて、店員を動かしていくシーンは、まるでダンスのように優雅で、これが店で実践されるさまが映ると、作られているものが実においしそうに見えて、無性にハンバーガーが食べたくなる。つまり、ここではクロックと同様に兄弟の魔法に魅せられているのだ。

 ところが後半、クロックの手にわたり、巨大企業へと変貌していくさまを見せられると、食欲は一気に失せる。だが、よく考えてみれば、クロックがいなければ日本にはマクドナルドがなかったかもしれないと気付くことになる。

 監督のジョン・リー・ハンコックは、『オールド・ルーキー』(02)『しあわせの隠れ場所』(09)『ウォルト・ディズニーの約束』(13)など実話の映画化を得意とする。

 本作については「映画を見た人の半分は『クロックはアメリカンヒーローだ』と言うだろう。また半分は『やっぱり兄弟こそがアメリカのヒーローだ』と言うだろう。それでいいと思う」と述べている。つまり反発と共感が相半ばするストーリーの重層性が本作の一番の魅力なのだ。

 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)で見事にカムバックを果たしたキートンが、野望を実現させるためのバイタリティーや押しの強さと、人を引きつける抗し難い魅力を併せ持ったクロック役を好演している。(田中雄二)


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