【映画コラム】“西洋版の落語”『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』
2018年10月6日
チューリップの球根売買がバブル景気を呼んだ、17世紀オランダのアムステルダムを舞台にした『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』が公開された。
貧しい画家のヤン(デイン・デハーン)は、富豪のコルネリス(クリストフ・ヴァルツ)から、自分と孤児院出身の若妻ソフィア(アリシア・ヴィキャンデル)の肖像画を描いてほしいと頼まれる。ところが、絵を描くうちに、ヤンとソフィアは恋に落ち、ヤンは新生活を夢見てチューリップ市場への投資を始める。そうとは知らないコルネリスは、跡取りとなる子どもをひたすらほしがる。そんな中、コルネリス家の女中マリア(ホリデイ・グレインジャー)の妊娠を知ったソフィアは一計を案じるが…。
本作は、17世紀のアムステルダムの街並みやコスチュームの再現、フェルメールの絵画のような画調も見どころだが、決して高尚な話ではない。むしろ、人間の色と欲の滑稽と哀れ、だます者とだまされる者の表裏一体の姿が生み出す悲喜劇、ナレーター=語り部の存在などが、日本の落語の世界をほうふつとさせるからだ。
例えば、同じ頃、日本は江戸時代の初期である。珍しい花の種が人気を呼ぶ中、大店の主人の後妻となった尼寺出身の若妻が浮世絵師と恋に落ちる。そこに、2人の秘密を知った女中、出入りの魚屋、女郎や悪徳町医者が絡んできて…でも話は十分成り立つ話ではないか。
しかも、本作は、大騒ぎの割には登場人物の誰も死にはしないし、実はヒロインはソフィアではなく、語り部のマリアだったという皮肉な落ちがつくところまで落語にそっくりなのだ。というわけで、デボラ・モガーの原作を基に、監督のジャスティン・チャドウィックと脚本のトム・ストッパードが、見事に面白い“西洋版の落語”に仕立ててくれたと喜んだ次第である。(田中雄二)
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