【映画コラム】良くも悪くも“劇映画”になっている『検察側の罪人』
2018年8月25日
共にジャニーズ事務所に所属する木村拓哉と二宮和也が新旧の検事役で初共演した『検察側の罪人』が公開された。
本作は、雫井脩介の原作を、監督・脚本、原田眞人で映画化。検事の仕事を具体的に見せながら、法の矛盾、時効、罪と罰、善と悪、司法と検察、そして正義の在り方を問い掛ける。
都内・蒲田近辺で強盗殺人事件が発生。被疑者の一人として、過去の未解決殺人事件の重要参考人だった松倉(酒向芳)の名が挙がる。事件を担当したベテラン検事の最上(木村)と新米検事の沖野(二宮)は、捜査方針をめぐって対立。やがて最上と松倉の過去の因縁が明らかになり、沖野は師である最上を「松倉を犯人に仕立て上げようとしているのではないか」と疑い始めるが…。
本作では、原作の大胆な省略と改変、早口のセリフ、テンポの速い展開、けれん味たっぷりの芝居、過去と現在の交錯など、随所に映画的な処理が施されている。その意味では、例えば演劇的なものを感じさせる三谷幸喜、半ドキュメンタリー的な是枝裕和などの映画とは違い、良くも悪くも“劇映画”になっていると感じた。
最近の原田監督は、『わが母の記』(12)、『駆込み女と駆出し男』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『関ヶ原』(17)と、多岐にわたる映画を精力的に撮り続けている。その点では、本作も新たなジャンルへの挑戦だったとも考えられる。
ただし、原田監督の映画は、総じて、設定やディテールにこだわって自分の“趣味”を入れ込み過ぎるので、話がまとまらず、散漫な印象を受けるところがある。今回も、原作にはないインパール作戦のくだりなどは果たして必要だったのか、という疑問が残った。
また、形は違うが、主人公が正義を貫こうとして悪になる姿、復讐(ふくしゅう)の空しさ、ラストシーンに響く叫び声など、原田監督が尊敬するという、黒澤明監督の『悪い奴ほどよく眠る』(60)を意識し、無理やり入れ込んだのではないかと思わせるところもある。
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