【映画コラム】現代にも通じる、知られざる歴史を描いた『ある町の高い煙突』
2019年6月22日
明治時代末期から大正時代にかけて、茨城・日立鉱山の亜硫酸ガスによる煙害に対して、当時世界一となる大煙突を建設した人々の姿を描いた『ある町の高い煙突』が公開中だ。原作は新田次郎。監督・脚本は同じく茨城を舞台に、岡倉天心の活動を描いた『天心』(13)の松村克弥。
本作を見ると、国策・殖産工業に伴い、雇用などで地元も潤うが、同時に自然破壊や公害、事故なども発生するという、現代の原発と同様の縮図が明治時代にもあったことが分かる。そして、理想と現実のはざまで、企業と地元住民が一体となって事に当たり、より良い結末を得たという希有(けう)な例が明かされる。
新田次郎原作の映画は、1970年代後半にブームがあり、日露戦争前の雪中行軍の悲劇を描いた『八甲田山』(77)、飢餓に苦しむイヌイットのために村を築いた日本人を描いた『アラスカ物語』(77)、中央アルプス木曽駒ヶ岳での遭難事故を描いた『聖職の碑』(78)が作られた。
最近では、日本地図完成のため命懸けで事に当たった測量師たちの姿を描いた『劒岳 点の記』(09)があるが、これらに共通するテーマは、実話を基に、極地や山岳地を舞台にして、世間からは黙殺されながらも何事かを成し遂げた、あるいは徒労に終わった無名の男たちを描くというものである。その点、本作の舞台は普通の村で、一種のハッピーエンドになっており、新鮮な印象を受けた。
そんな本作を見て、栃木県の足尾鉱毒事件を告発した田中正造代議士の半生を描いた『襤褸(らんる)の旗』(74)を思い出した。こうした、日本の近代を背景にした社会派劇は、現代にも通じる、知られざる歴史を明らかにする意味でも、もっと作られるべきだと思う。それもまた、映画に与えられた大切な使命の一つなのだから。(田中雄二)
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