【映画コラム】「ひよっこ」を見て思い出した『ひまわり』
2017年8月5日
朝ドラ「ひよっこ」の、記憶喪失で行方不明になった夫の実(沢村一樹)が別の女性(菅野美穂)と暮らす家を妻の美代子(木村佳乃)が訪ねる…というシーンを見ながら、名匠ビットリオ・デ・シーカが監督し、名優ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが共演したある映画を思い出した。
というわけで、今週はその『ひまわり』(70)を紹介しよう。
この映画は、イタリアのナポリを舞台に、第二次世界大戦によって引き裂かれた一組の夫婦の悲劇を描いている。とはいえ、前半はローレンとマストロヤンニが演じる新婚夫婦のやり取りが明るくコミカルに展開されるものだから、またお得意のパターンかと思わせる。
というのも、デ・シーカ監督、ローレン、マストロヤンニの名トリオは、この映画の前に『昨日・今日・明日』(63)と『あゝ結婚』(64)という艶笑コメディーの傑作を生み出しているからだ。
ところが、夫のアントニオがロシア戦線に出征し、行方不明となる後半は、一転して悲劇へと変わる。この喜劇から悲劇への鮮やかな変転が悲しみを倍加させるのだ。
デ・シーカ監督は『靴みがき』(46)『自転車泥棒』(48)などで、イタリアンネオリアリズムの先駆者として知られているが、その一方、コメディー映画も数多く手掛けた人。だからこそこうした芸当ができたのだろう。
妻のジョバンナは夫を捜しにロシアに赴くが、戦火で一時、記憶喪失となったアントニオは、命を救ってくれたマーシャ(リュドミラ・サベリーエワ)と一緒に暮らし、子までなした仲になっていた。新たな生活を送る夫の姿を目の当たりにし、マーシャが心底からアントニオを愛していることを知ったジョバンナは、夫を返してくれとは言い出せない。そんな3人の関係を見ていると何とも切なくなる。
絶望したジョバンナは、思わず外に出てひまわりが咲き乱れる畑の中をさまよう。その時、ヘンリー・マンシーニ作曲のテーマ曲がまさに絶妙のタイミングで流れ始めて…。ずるいと思いながらも、涙せずにはいられない名シーンだ。やがて傷心のジョバンナは帰国し、アントニオはマーシャに促され、元妻に会うためにイタリアに向かうのだが…。
彼らは誰も悪くない。悪いのは彼らの人生を狂わせた戦争なのだということを強烈に感じさせる反戦、メロドラマの傑作。ローレンがイタリア女性の情の深さとたくましさを見事に体現している。
「ひよっこ」の脚本を書いている岡田惠和は、恐らくこの『ひまわり』から設定を借りたと思われるが、再会後の実と美代子の関係をどう描いていくのだろうか。朝ドラだけにハッピーエンドが望ましいのだが…。(田中雄二)
-
2017年7月29日
【映画コラム】無性にハンバーガーが食べたくなる?『ファウンダー ハ... -
2017年7月22日
【映画コラム】名作ボクシング映画の系譜に連なる『ビニー/信じる男』 -
2017年7月15日
【映画コラム】精神や技術の継承をテーマにした『カーズ/クロスロード』 -
2017年7月10日
【映画コラム】人間とエイリアン、生き残るのはどっちだ!『ライフ』 -
2017年7月1日
【映画コラム】人物描写のバランスの取り方を間違えた?『忍びの国』 -
2017年6月24日
【映画コラム】後期高齢者応援ムービー『ジーサンズ はじめての強盗』 -
2017年5月27日
【映画コラム】やっかいだけどいとおしい家族の姿を描いた『家族はつら... -
2017年5月20日
【映画コラム】知的好奇心を刺激する哲学的なSF映画『メッセージ』 -
2017年5月14日
【映画コラム】映画館でこそ真価を発揮する『ガーディアンズ・オブ・ギ... -
2017年5月7日
【映画コラム】ウディ・アレン流『ラ・ラ・ランド』の趣がある『カフェ... -
2017年4月17日
【映画コラム】“いい話”も工夫がなければ“いい映画”にはならない『ライ... -
2017年4月1日
【映画コラム】“私映画的“な色合いがとても強い『ムーンライト』 -
2017年3月25日
【映画コラム】二人芝居で描くユニークなSF映画『パッセンジャー』 -
2017年3月18日
【映画コラム】主人公・零を取り巻く個性豊かな群像劇『3月のライオン... -
2017年3月11日
【映画コラム】少女たちが躍動する『モアナと伝説の海』と『チア☆ダン~』 -
2017年2月25日
【映画コラム】今年のアカデミー賞の大本命!『ラ・ラ・ランド』 -
2017年2月18日
【映画コラム】古き良きハートウォーム映画の雰囲気を踏襲した『素晴ら... -
2017年2月11日
【映画コラム】トム・ハンクスが久しぶりに本領を発揮した『王様のため... -
2017年2月4日
【映画コラム】トランプで揺れる今こそ見るべき映画『ニュートン・ナイ...

