【映画コラム】何もかも奪われた時、人は何になるのか…『レヴェナント 蘇えりし者』
2016年4月23日
レオナルド・ディカプリオが“5度目の正直”でアカデミー賞の主演男優賞を受賞した『レヴェナント 蘇えりし者』が公開された。音楽は坂本龍一が担当している。
1823年、ヒュー・グラス(ディカプリオ)は、先住民の妻との間に生まれた息子のホークと共に、探検隊のハンター兼道案内人として未開拓地に足を踏み入れた。
だがグラスは、灰色熊に襲われて瀕死(ひんし)の重傷を負う。隊員のフィッツジェラルド(トム・ハーディ)は金欲しさにグラスの世話を引き受けるが、ホークの命を奪った上に、グラスを置き去りにする。息を吹き返したグラスは、フィッツジェラルドへの復讐(ふくしゅう)を胸に、厳寒の地をさまよう。
絶望の中でも、必死に生き残ろうとする人間の本能を、目や体の動きを中心に表現したディカプリオ。先住民の攻撃にさらされ、凍てつく川を泳ぎ、木の根を食べ、死んだ馬の体内で眠る…。これでもかとばかりに体を痛めつける姿は、まさに“体当たりの演技”“鬼気迫る演技”という表現がぴったり。
アカデミー賞の受賞も当然の結果と言えるが、顔も演技もますます“ジャック・ニコルソン化”が進んでいるとも感じさせられた。
ところで、「レヴェナント」とは「黄泉の国から戻った者」を表わす言葉。アメリカの西部開拓時代にはホラ話的な伝説が数多く存在するが、グラスの生還劇は実話で、200年もの間、語り継がれてきた。主人公の名前は変えられていたが、『荒野に生きる』(71)というタイトルで映画化されたこともある。
今回はその伝説に、自然の中の人間、西部開拓の恥部といったケビン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)的な視点を新たに加えたばかりでなく、グラスの息子を創造して親子の絆というテーマも描いている。
もはやここには昔ながらの西部劇の面影はなく、監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、撮影エマニュエル・ルベツキというメキシコ人コンビが、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)のブロードウェー同様に、“異邦人の目から見たアメリカ”として西部開拓時代を映し出している。
見ていて決して胸がすくような映画ではないが、ディカプリオ、ハーディの熱演、太陽光と火の光を照明として自然の厳しさを捉えたルベツキのカメラワークに圧倒されることは確かだ。イニャリトゥ監督は「グラスの物語は、何もかも奪われた時、人は何になるのかを問い掛けてくる」と語っている。一見の価値あり。(田中雄二)
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