【映画コラム】現実と空想世界が交差する二重構造『マーウェン』
2019年8月3日
ヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害に遭い、障害を負いながらも、独自の世界観で写したフィギュアの写真で認められたマーク・ホーガンキャンプ(スティーブ・カレル)が、創作活動を通して回復していく姿を実話を基に描いた『マーウェン』が公開中だ。タイトルはマークがミニチュアで作った第2次世界大戦中の架空の村の名前にちなんでいる。
監督のロバート・ゼメキスは、これまで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『ロジャー・ラビット』(88)『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)『ザ・ウォーク』(15)などで、最新の映像技術を駆使しながら、ディテールにこだわり、時空を超えたり、過去をよみがえらせたりしてきたが、今回は現実とマークの空想世界を交差させて描いている。
そして、フィギュアに生を与え、観客をマークの空想世界の中に連れていくことに腐心した結果、CGではなくモーションキャプチャーを使って映像化したという。確かに本作は映像的にはとても面白い。
また、マークを描いたドキュメンタリー映画に想を得たゼメキス監督は、現実の中にマークの空想世界を映像化して入れ込み、両者を交差させ、二重構造とすることで、マークの内面(恨み、暴力性、フェチシズム)を浮かび上がらせた。
障害故に無垢(むく)なところがあるマークの人物像は、トム・ハンクスが演じた『フォレスト・ガンプ~』の主人公と重なる部分もあるが、本作は、現実と空想世界とのバランス感覚が独特でグロテスクな描写も目立つ。こうした部分への好嫌が評価の分かれ目となるのではないかと感じた。
私見ではマークと彼の分身のホーギー大尉以外は、実人物とフィギュアとのつながりが描き切れておらず、両者のイメージが重なってこないところが本作の弱点だと思う。そこが、主人公以外の人物もしっかりと描いていた『フォレスト・ガンプ~』とは異なるのだ。(田中雄二)
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