【映画コラム】名作ボクシング映画の系譜に連なる『ビニー/信じる男』

2017年7月22日 / 15:32

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 交通事故で首の骨を折りながら再起したプロボクシングの元世界チャンピオン、ビニー・パジェンサ(マイルズ・テラー)の実話を基にした『ビニー/信じる男』が公開された。ロバート・デ・ニーロが元ミドル級王者のジェイク・ラモッタを演じたボクシング映画の名作『レイジング・ブル』(80)を監督したマーティン・スコセッシがプロデュースをしている。

 本作のクライマックスは、不屈の闘志でリハビリをやり遂げ再起したパジェンサが、“石の拳”と呼ばれた名王者ロベルト・デュランに挑戦した世界タイトルマッチ。ハリウッド映画ならではの迫力満点の試合シーンが展開する。

 『セッション』(14)での熱演も記憶に新しいテラーが、心身ともにパジェンサに成り切ったほか、かつて元ヘビー級王者のマイク・タイソンのトレーナーも務めたケビン・ルーニー役のアーロン・エッカート、エキセントリックなパジェンサの父親役のキアラン・ハインズも好演を見せる。

 ところで、1980~90年代は、中量級のボクシングシーンが最も熱かった時代と言っても過言ではない。デュランのほかにも、シュガー・レイ・レナード、“マーベラス”マービン・ハグラー、“ヒットマン”トマス・ハーンズらが互いにしのぎを削った。そうした名だたるスター選手の中でパジェンサは異彩を放ったのだ。

 また本作で描かれたように、アメリカンドリームを拳一つで体現するボクシングと映画の縁はとても深い。例えば、本作のように実在のボクサーを描いたものでは、『レイジング・ブル』のほかにも、ポール・ニューマンが元ミドル級王者のロッキー・グラジアノに扮(ふん)した『傷だらけの栄光』(56)、ジェームス・R・ジョーンズが黒人初のヘビー級王者となったジャック・ジョンソンを演じた『ボクサー』(70)、デンゼル・ワシントンが冤罪で20年間刑務所で過ごした元ミドル級王者ルービン・カーターを演じた『ザ・ハリケーン』(99)、ラッセル・クロウが元ヘビー級王者ジム・ブラドックを演じた『シンデレラマン』(05)、マーク・ウォールバーグがミッキー・ウォードを演じた『ザ・ファイター』(10)などなど枚挙にいとまがない。

 伝説となった元ヘビー級王者ムハマド・アリには、本人主演の『アリ・ザ・グレーテスト』(77)とウィル・スミスがアリを演じた『ALI アリ』(01)があるし、フィクション代表では、シルベスター・スタローン主演の『ロッキー』(76)が、シリーズ化され、『クリード チャンプを継ぐ男』(15)まで続くといった具合。本作は紛れもなくそうした系譜に連なる作品だ。

 くしくも、デュランを主人公にした『ハンズ・オブ・ストーン』も7月24日から公開される。本作と見比べてみるのも一興だろう。(田中雄二)


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