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犯罪組織の天才ドライバーが、恋した女性のために足を洗おうとする姿を描いたクライムアクション『ベイビー・ドライバー』が公開された。
犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビー(アンセル・エルゴート)。彼は子どものころに遭った事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、音楽を聴くことで耳鳴りが消え、天才的なドライビングテクニックを発揮するのだ。
監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)や『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)などのエドガー・ライト。本作は、無類の映画マニアとしても知られるライトが、その本領を遺憾なく発揮した一作だと言えるだろう。
ます、逃がし屋といえば、同じ小説を基に映画化しながら全く違った映画になったウォルター・ヒル監督、ライアン・オニール主演の『ザ・ドライバー』(78)とニコラス・ウィンディング・レフン監督、ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』(11)が思い浮かぶが、スピード感やカースタントの点では本作の方が勝っているかもしれない。
また、本作は、犯罪を描いているにもかかわらず、スタイリッシュな映像、音楽と一体化したカーチェイス、音楽のビートに合わせて銃声が響くといったミュージカル的な要素から、欧米では“カーチェイス版の『ラ・ラ・ランド』”とも称されているという。
さらに、『俺たちに明日はない』(67)を思わせる、ベイビーとデボラ(リリー・ジェームズ)のバイオレンスの中の純愛が隠し味になっている。と、まさに“映画狂ライト”の面目躍如。主演のエルゴートも「たくさんの映画を知っていて、それらの作品のいいところをうまく取り入れることができるのがエドガーの素晴らしさだ」と語っている。
加えて、ケビン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハムといったくせ者たちが脇を固め、「イージー」(コモドアーズ)、「デボラ」(Tレックス)、「ブライトン・ロック」(クイーン)、そして「ベイビー・ドライバー」(サイモン&ガーファンクル)など、監督自身の趣味性の強い、既成の曲を効果的にちりばめた。
このあたり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズやクエンティン・タランティーノの諸作と通じるところもあるのだが、それらよりも洗練されているところがミソ。何ともユニークな映画が登場したものだ。(田中雄二)