【映画コラム】人はその才能でこそ判断されるべき『ドリーム』

2017年9月23日 / 18:38

(C)2016 Twentieth Century Fox

 1960年代初頭、NASA(米航空宇宙局)に勤める3人の黒人女性が、有人宇宙飛行(マーキュリー)計画に多大な貢献を果たした事実を描いた『ドリーム』が9月29日から公開される。

 1961年、米ソの宇宙開発競争が加熱する中、バージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究所には、ロケットの打ち上げには不可欠な計算を行う黒人女性たちのグループがあった。

 天才的な数学者キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は、宇宙特別研究本部のメンバーになるが、白人男性だけのオフィスの環境は劣悪そのもの。黒人女性用のトイレすらなかった。同僚のドロシー(オクタビア・スペンサー)とメアリー(ジャネール・モネイ)も、黒人故にたびたび理不尽な目に遭う。だが、3人は決してめげることなく努力し、新たな扉を開いていく。

 かつて、マーキュリー・セブンと呼ばれた宇宙飛行士たちを描いた『ライトスタッフ』(83)という名作があったが、本作は“裏『ライトスタッフ』”とも呼ぶべき、知られざる事実を掘り起こした。だから原題の「Hidden Figures」には、「隠された人たち(数字)」という二重の意味がある。また、両作を結ぶキャラクターとして、アメリカ初の地球周回軌道を飛行したジョン・グレン(グレン・パウエル)が登場するのも見どころだ。

 監督のセオドア・メルフィは『ヴィンセントが教えてくれたこと』(14)を監督し、『ジーサンズ はじめての強盗』(17)の脚本を書いた、温かみのある人間ドラマの名手。本作に関しては「人種も、性別も、経歴も関係なく、何かが得意ならばそれでいい。人はその才能でこそ判断されるべき」ということを念頭に置いて製作したという。

 その意味でも、彼女たちは、例えば黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンにも匹敵するパイオニア的な存在であり、人種差別と性差別の両方と闘ったことになる。そして、闘いの後に栄光があったロビンソンとは違い、これまで無名であった彼女たちの存在を知らしめたところに、本作の価値があるのだ。

 3人の他にも、ケビン・コスナーがキャサリンの才能を見いだす上司というもうけ役を得て、久しぶりにいいところを見せる。一方、キャサリンの才能を無視する同僚役のジム・パーソンズ、ドロシーの上司役のキルスティン・ダンストが、憎まれ役をきちんと演じて、見事にキャラクターにメリハリを付けている。

 また、オリジナルの曲で60年代を表現した「ハッピー」のファレル・ウィリアムス&ハンス・ジマーの音楽も素晴らしい。

 本作は、見ながら、文句なく元気になれる映画だが、日本が昭和を懐かしむように、アメリカもまた、こうした映画を通して元気だった時代を懐かしんでいるのだろうか、という気もする。
(田中雄二)


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