【映画コラム】 正義とは一体何なのかを問い掛ける『藁の楯 わらのたて』

2013年4月20日 / 18:21

(c)木内一裕/講談社 (c)2013映画「藁の楯」製作委員会

 10億円の懸賞金が懸けられた女児殺害犯・清丸の身柄を、48時間以内に福岡から警視庁まで移送するSPたちの姿を描いたサスペンスアクション『藁の楯 わらのたて』が26日から公開される。

 三池崇史監督は、物語の縦糸として、護送車、新幹線、乗用車、タクシーと、さまざまな交通手段を使って犯人を移送する激しいアクションを見せながら、横糸として人間のクズのような犯人の命をを守ることに葛藤するSPたちの心の内を描いていく。この二重構造が映画全体に深みを与えている。さらに「人間のクズを殺せば、10億円が手に入る」と色めき立つ人々の姿を通して、法の限界、ネット社会の功罪、そして正義とは一体何なのかを問い掛ける。

 悩みながらも職務を全うしようとするSP役の大沢たかおと松嶋菜々子の硬質の演技、そして三池監督に「人間のクズを演じさせたら世界一」と言わしめた清丸役の藤原竜也の常軌を逸した様子が見ものだ。さらに10億円の懸賞金を提示する財界の大物を演じた名優・山崎努の怪演が目を引く。くしくも彼は黒澤明監督の『天国と地獄』(63)では高額な身代金を要求する冷酷な幼児誘拐犯を演じていた。これは配役の妙と言うべきか。

 ところで、本作における出色のアクションシーンは新幹線内で繰り広げられるが、実際は台湾の高速鉄道を利用して撮影された。日本の新幹線を使ったアクションの撮影は不可能とされている。前述の『天国と地獄』は新幹線の前身ともいえる特急こだま号を借り切って身代金の受け渡しの場面が撮影されたが、これはあくまでも例外。

 日本よりもフランスでヒットし、時速80キロ以下になると爆弾が爆発するという斬新なアイデアがハリウッド映画の『スピード』(94)にも影響を与えたといわれる『新幹線大爆破』(75)はミニチュア特撮を駆使しているし、車内で剣豪が忍者軍団とチャンバラを繰り広げる珍作『ハンテッド』(95)ももちろん本物の新幹線内で撮影されたものではない。という訳で、台湾物とはいえ“実物”が登場する本作の迫力は推して知るべしなのだ。(田中雄二)

公開情報
4月26日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画


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