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トム・クルーズ主演のSF大作『オブリビオン』が5月31日から公開された。
まずは簡単な粗筋からご紹介しよう。2077年、エイリアンの攻撃を受けて地球は壊滅。生き残った人類は他の惑星に移住した。ジャックは同僚の女性と共に、高度千メートルのスカイタワーから荒廃した地球の監視作業を行っていたが、謎の女性が出てくる昔の地球の夢を何度も見た。そしてパトロール中に、墜落した宇宙船の中で眠っている女性を発見。彼女こそ夢に出てくる女性だった…。
オブリビオンとは「忘却」の意。主人公ジャックの心の片隅に残る記憶を表している。彼がなぜ記憶を失っているのかがこの映画の最大のテーマなのだが、その秘密はもちろんここでは明かせない。ぜひ映画館で確かめてほしい。トムが『トップガン』(86)をほうふつさせる空中アクションを展開させるのも見ものだ。
本作では『猿の惑星:創世記』(11)のプロデューサー、ピーター・チャーニンと『トロン:レガシー』(10)のジョセフ・コシンスキー監督が手を組んだ。コシンスキー監督は機械工学科出身という変り種で、本作ではグラフィックノベルの原作も描いている。それ故か、ビジュアル的にはアート感覚にあふれ、ゲーム的、あるいはメカニカルなものを感じさせるが、ストーリーはSF作家のフィリップ・K・ディックから大きな影響を受けていると思われる。
ディックの小説は、これまでも『ブレードランナー』(82)から、模造記憶を売る『トータル・リコール』(90)、殺人予知システムを扱った『マイノリティ・リポート』(02)、運命調整係の存在を描いた『アジャストメント』(11)など何本も映画化されている。彼の描く世界は、主人公が過ごす日常が実は何者かによってつくられた幻影だとし、主人公が自分は果たして何者なのかを探っていくという物語が多い。まさにこの『オブリビオン』のテーマとぴったり合うのだ。
この後、6月21日に公開されるウィル&ジェイデン・スミス親子共演の『アフター・アース』の舞台も人類が捨てた千年後の地球だ。SF映画が描く未来の地球像は、どうしてこうも懐疑的で悲観的なものが多いのだろうか。(田中雄二)