【映画コラム】 いかだで8000キロの航海をした男たちの実話を映画化した『コン・ティキ』

2013年6月15日 / 18:30

(C)2012 NORDISK FILM PRODUCTION AS

 1947年、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールと5人の乗組員が、古代のいかだを再現したコン・ティキ(インカ帝国の太陽神ビラコチャの別名)号に乗って、南米のペルーからポリネシアまで太平洋横断を試みた。風と波を動力に、太陽と星を道しるべに、およそ8000キロの航海をした男たちの実話を映画化した『コン・ティキ』が29日から公開される。

 なぜ彼らはこんな無謀とも思える航海を行ったのだろうか。それはトールが「ポリネシア人の先祖は南米から海を渡ってやって来た。海は障壁ではなく道だったのだ」という仮説を実証するために計画を立て、それを実行に移したからだ。その行為はいささか滑稽に見えるが、これが歴史上の大発見につながったのだから、まさに「事実は小説よりも奇なり」ということになる。

 本作では、トールが古代のいかだの再現に固執し、40年代当時の部品は使わないとしながら、8ミリカメラや無線機は巧みに利用するというしたたかな面も描き込んでいる。実際、航海の様子を記録した『Kon-Tiki』は51年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞し、トールの名を世界中に知らしめる一助となったのだ。

 また、本作の撮影スタッフは、洋上場面をセットではなく本物の海で撮影することにこだわり、加えてほとんど無名の俳優たちに6人を演じさせることによって、ドキュメンタリー的な側面を増幅させた。船上での男たちの葛藤と喜びといった人間ドラマもさることながら、クジラ、サメ、大クラゲといった巨大生物との遭遇、激しく変化する天候などが、本物ならではの迫力をもって眼前に迫ってくる。

 本作をプロデュースしたジェレミー・トーマスは、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)やベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』(87)など、異文化との出会いと衝突を描く作品にこだわり続けている製作者。彼にとっては本作もそのテーマの延長線上にある作品なのだ。(田中雄二)

公開情報
6月29日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷TOEI他全国公開


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