【映画コラム】 世界文化遺産に登録された富士山を舞台にした『樹海のふたり』

2013年6月22日 / 19:24

(C)2013『樹海のふたり』製作委員会

 お笑いコンビ、インパルスの板倉俊之と堤下敦を主役に起用し、数々のテレビドキュメンタリーを制作した山口秀矢が脚本・監督を手掛けた『樹海のふたり』が7月6日から公開される。本作は、テレビの報道番組の特集コーナーで自殺志願者に取材したディレクターの実体験を基にしている。

 フリーのテレビディレクターの竹内(板倉)と阿部(堤下)。仕事にあぶれた2人は、富士の樹海で自殺しようとする人々にインタビューを敢行し、彼らの心情や自殺を思いとどまらせるシーンを撮って番組にすることを考える。

 山口監督は樹海でのロケーションを多用し、インパルスの2人に取材の追体験をさせながら、リアルな映像と作り物の映像との境界のあいまいさを映し出す。そこから「視聴率のためなら何をしてもいいのか。テレビなら何を映してもいいのか」という問いが発せられる。それは長い間テレビの映像番組と関わってきた監督自身が抱く疑問でもあるのだろう。

 さて、本作の注目点はインパルスを主役に起用したことだ。コメディー系の人がシリアスな役を演じた場合、通常の姿とのギャップもあり、賛否が分かれるところだが、本作の2人はテレビのバラエティー番組などとはまったく違う“演技者”として存在感を示している。

 山口監督は竹内と阿部のイメージを、ヒッチハイクでアメリカ大陸を横断する2人の男の友情を描いた『スケアクロウ』(73)のアル・パチーノとジーン・ハックマンに求めたという。そうだとすると、板倉が神経質で小柄なパチーノで堤下がずんぐりむっくりのハックマンということになるのだろうか。興味がある人はぜひDVDなどで確かめてみてほしい。

 世界文化遺産への登録が決定した富士山。樹海は自殺者が多く訪れる場所として語られることが多いが、実は富士山から流れ出た溶岩が焼け野原にした台地に新たな木々が芽吹いて森となった“再生の地”。だからこそ、悩みや苦しみを持ちながらも生きていくことへの希望を描いた本作はここを舞台としたのだろう。(田中雄二)

公開情報
7月6日よりユーロスペース他にて全国順次ロードショー


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