【映画コラム】映画作りへの愛と映画の力を信じる心を描いた『キネマの神様』と『サマーフィルムにのって』
2021年8月5日

 映画製作の舞台裏を描いた『キネマの神様』と『サマーフィルムにのって』が8月6日から公開される。『キネマの神様』は、松竹映画100周年記念作品で大ベテランの山田洋次が監督した大作。一方『サマーフィルムにのって』は若手のスタッフと俳優たちが製作し、昨年の東京国際映画祭で話題となった作品。一見、対照的とも思える2本だが、映画作りへの愛と映画の力を信じる心を描いている点では共通するものがある。

映画作りへの愛と映画の力を信じる心『キネマの神様』

(C)2021「キネマの神様」製作委員会

 ギャンブル漬けで借金まみれのゴウ(沢田研二)は、妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放された駄目おやじ。そんなゴウにも、たった一つ愛してやまないものがあった。それは映画。行きつけの名画座の館主・テラシン(小林稔侍)とゴウは、かつて撮影所で働く仲間だった。

 原田マハの同名小説を山田洋次監督が映画化。とは言え、原作の設定を大きく変え、ゴウを撮影所の元助監督とし、現在と過去を交錯させながら描くという、全く別の話になっている。つまり、少々意地悪な見方をすれば、山田監督が原作を利用して、自分の思い出用に改変したと思えなくもなかった。ところが、実際に映画を見ると、見事に“山田洋次の世界”に昇華されており、小説と映画は別物だということを、改めて知らされた思いがした。

 特に、若手俳優たちの生かし方が素晴らしい。菅田正輝(ゴウ)、野田洋次郎(テラシン)、永野芽郁(淑子)に、生き生きと“昔”を演じさせている。また、女優役の北川景子を、昔の大女優・原節子的なイメージで思う存分に美しく撮っている。さすがは「男はつらいよ」シリーズで名だたる女優たちをマドンナとして撮ってきた監督だと思わずにはいられなかった。

 そして、新型コロナウイルス感染で亡くなった志村けんの後を継いだ沢田が、多少のぎこちなさを感じさせながらも、精いっぱい頑張ってゴウを演じ、大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(19)に続いての映写技師役で、ゴウを支える相棒テラシンを演じた小林も好演を見せる。宮本、寺島の母子役もなかなかよかった。彼らが、この映画のもう一つのテーマである家族の絆と奇跡を体現する。

 さらに、全編に、清水宏、小津安二郎の『東京物語』(53)、チャールズ・チャップリン、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)、『キートンの探偵学入門』(24)…といった、過去の映画人や作品へのオマージュがちりばめられているのも魅力の一つ。

 コロナ禍での紆余(うよ)曲折を経て完成した映画だけに、映画作りへの愛と映画の力を信じる心がより強く感じられるものになっている。

 
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