日本独特の戦争映画の系譜に連なる『ラーゲリより愛を込めて』 ビートルズ以前に焦点を当てた『ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~』【映画コラム】
2022年12月9日
『ラーゲリより愛を込めて』(12月9日公開)
第2次世界大戦終結後の1945年。ソ連軍によってシベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留された日本人捕虜たちは、極寒の地で、わずかな食糧のみでの重労働を強いられ、命を落とす者が続出した。
そんな中、山本幡男(二宮和也)は、日本にいる妻・モジミ(北川景子)や子どもたちの下へ必ず帰れると信じ、周囲の人々を励まし続ける。やがて、山本の仲間思いの行動と力強い信念は、多くの捕虜たちの心に希望の火を灯していくが、彼自身は病に侵される。
実在の日本人捕虜を主人公にした辺見じゅんのノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を基に、瀬々敬久監督が映画化。ラーゲリでの山本の捕虜仲間を松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕らが演じる。
舞台となるのがシベリアだけに、現在のウクライナ情勢を考えると、複雑な思いがする話だが、この映画を見ながら、過去のさまざまな映画のことが思い浮かんできた。
理不尽なシベリア抑留については、子どもの頃に見たアニメ「巨人の星」での、元巨人軍監督・水原茂のエピソードで初めて知った。くしくも、この映画にも収容所内で野球をするシーンがあった。
その野球のシーンを見ながら、極限状態の中でも(だからこそ)人は楽しみを見つけるという意味では、加東大介原作の『南の島に雪が降る』(65)の軍隊芝居にも通じるものがあると感じた。
劇中、山本が盛んに口ずさみ、やがて捕虜たちの間にも広がっていく歌が、なぜかアメリカ民謡の「いとしのクレメンタイン」。
これが、この映画と同じく戦後の捕虜収容所を舞台にした市川崑監督の『ビルマの竪琴』(56・85)で歌われたイングランド民謡の「埴生の宿」と同じような役割を果たす。
全体の語り部が副主人公(松坂)という点も『ビルマの竪琴』と同じで、どちらにも「一緒に日本に帰ろう」というせりふがあった。
また、戦友たちから預かった遺書を、全国の遺族へ届け続けた男(渥美清)を描いた今井正監督の『あゝ声なき友よ』(72)という映画もあった。
そう考えてくると、この映画は日本独特の戦争映画の系譜に連なるのではないかと思った。また、これだけいろいろなことを思い出すということは、この映画が豊かな表現力を持っていたことの証しなのかもしない。
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