【映画コラム】見るのではなく“体感する映画”『ダンケルク』
2017年9月9日
『ダークナイト』(08)『インセプション』(10)『インターステラー』(14)などを手掛けたクリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』が公開された。
1940年、仏北端のダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の兵士たちは、背後は海、空と陸からは敵の襲撃という、絶体絶命の状況に陥る。そんな中、英国は対岸の同胞を救うため、民間船まで動員して救出作戦(通称ダイナモ作戦)を開始する。
本作は、ノーラン監督にとっては、初めて実話を基に描いた戦争映画。陸海空と、それぞれ異なる時間軸の出来事を、一つの物語として同時進行させた視点、それを約1時間40分にまとめ上げた整理力が目を引く。
ノーラン監督は「この映画では、今まで撮ってきたような個人のヒロイズムではなく、集団のヒロイズムを描きたかった。極限に置かれた彼らと一緒に観客が“旅”をすることで、最後は集団のヒロイズムが成し遂げられるさまを見せたかった」と語っている。
その言葉通り、冒頭、独軍の銃撃から逃げ惑う主人公と一緒に、観客も否応なしに戦場へ連れて行かれ、わけが分からぬまま、その渦中に身を置いた気分にさせられる。その感覚は、同じく第2次大戦下のノルマンディー上陸作戦を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98)と双璧を成す臨場感によって生み出されたもの。これは見るのではなく“体感する映画”だと言っても過言ではないだろう。
このように本作は、まさに“狂気の監督クリストファー・ノーラン”の真骨頂、面目躍如といった感があるが、ハンス・ジマーの音楽と優れた音響効果が緊迫感を助長した点も特筆に価する。
ところで、筆者が初めてダイナモ作戦について知ったのは、大昔にアンリ・ベルヌイユ監督、ジャン・ポール・ベルモンド主演の仏伊合作映画『ダンケルク』(64)をテレビで見た時だった。
この映画は、英側が主体の本作とは対照的に、仏側から見たダイナモ作戦を描いている。何しろ記憶がおぼろげだったので、今回見直してみたいと思ったものの、残念ながらDVDは絶版らしい。これを機会に、ぜひとも再版してほしいものだ。(田中雄二)
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