天から選ばれた映画音楽の巨匠『モリコーネ 映画が恋した音楽家』/「#MeToo 運動」の火付け役となった2人の女性記者『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』【映画コラム】
2023年1月13日
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(1月13日公開)
ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、師であり友でもある映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネに迫ったドキュメンタリー。
ちなみに『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)以降、『みんな元気』(90)『明日を夢見て』(95)『海の上のピアニスト』(98)『マレーナ』(00)『シチリア!シチリア!』(09)『鑑定士と顔のない依頼人』(13)と、トルナトーレ作品の音楽はモリコーネが担当している。
1961年のデビュー以来、生涯500作品以上もの映画やテレビの音楽を手掛けたモリコーネ。この映画は、彼へのインタビューというよりも“独白”を中心に、関係者の証言、作曲した映画の名場面、ワールドコンサートツアーの演奏などを織り込みながら、作曲の秘密を解き明かす一方で、パワフルでチャーミングなその人間性にも迫っている。
この映画の素晴らしさは、もちろん、モリコーネの音楽自体によるところが一番だが、全編にトルナトーレのモリコーネへの素直な愛があふれ、編集のテンポもよく、その生い立ちから、仕事ぶり、悩みや屈折までを明らかにしていき、とても見応えがある。157分という長尺ながら、全く飽きさせない。トルナトーレ監督の最高傑作との声もある。
「映画音楽の作曲は好きではなかった。屈辱だった。正当な音楽や作曲から見れば邪道」と卑下し、やめたいというモリコーネを、映画(監督)の方が求めて、離さない。だから映画の仕事が途切れない。やめられないという堂々めぐりを見ていると、やはり、彼は映画音楽の作曲者として天から選ばれた人だったのだと思わずにはいられない。
また、監督たちとのエピソードを聞いていると、ひょっとしたら、モリコーネの方が監督よりも映画を理解しているのではないかと思わされるところがあるのも面白い。
特に、小学校時代の同級生でもあるセルジオ・レオーネ作品におけるモリコーネの音楽は、レオーネの思わせぶりで冗漫な演出を補って余りあるものがあり、名画だと錯覚させる効果を発揮したと思う。とはいえ、この映画を見ていて泣けてしまうのは、やはり『ウエスタン』(68)であり、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)のところなのだけれど…。
登場する主な名場面は、『荒野の用心棒』(64)『夕陽のガンマン』(65)『続・夕陽のガンマン』(66)『ウエスタン』『シシリアン』(69)『殺人捜査』(70)『1900年』(76)『天国の日々』(78)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『ミッション』(86)『アンタッチャブル』(87)『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)『海の上のピアニスト』(98)『ヘイトフル・エイト』(15) …。
主な証言者は、トルナトーレ、クリント・イーストウッド、ベルナルド・ベルトルッチ、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、オリバー・ストーン、ローランド・ジョフィ、タビアーニ兄弟、ダリオ・アルジェント、リナ・ウェルトミュラー、リリアーナ・カバーニ、ジョン・ウィリアムズ、ハンス・ジマー、クインシー・ジョーンズ、ブルース・スプリングスティーン、ジョーン・バエズ、パット・メセニー…。
ベルトルッチやストーン、タビアーニ兄弟といった監督たちが、モリコーネが作曲した自分の映画の音楽を、尊敬と礼を込めて、楽しそうに口ずさむ様子が、何だかほほ笑ましく映った。
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