創作活動に共通する苦悩や喜び、そして熱気を描いた『大河への道』『ハケンアニメ!』【映画コラム】
2022年5月19日

『大河への道』(5月20日公開)

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

 立川志の輔の創作落語「伊能忠敬物語 大河への道」を、中西健二監督、森下圭子の脚本で映画化。企画兼任の中井貴一をはじめ、松山ケンイチ、北川景子らが、二つの時代で一人二役を演じ、現代を舞台に繰り広げられる大河ドラマ制作の行方と、200年前の日本地図完成に至る秘話を描く。

 千葉県香取市。市役所の総務課に勤める池本保治(中井)は、市の観光振興策を検討する会議で意見を求められ、苦し紛れに⼤河ドラマ制作を提案。思いがけずそれが通り、郷土の偉人、伊能忠敬を主人公とする大河ドラマの企画が立ち上がってしまう。

 だが、脚本準備の最中に、忠敬が地図完成の3年前に亡くなっていたという事実が発覚する。一方、1818年の江戸では、亡くなった忠敬の志を継いだ弟子たちが、地図を完成させるべく秘策を講じていた。

 地図を完成させるために、「では、今しばらく先生には、生きていていただきましょうか…」として、弟子たちが幕府に対して忠敬の死を3年間秘すのは、戦国武将の武田信玄と同じ。信玄の死後を描いた黒澤明監督の『影武者』(80)を思い出した。

 そんなこの映画では、本来の主役たる伊能忠敬は一切姿を見せず、後を継いだ無名の測量隊員たちが、地図作りに奮闘する様子から、見えない主役=忠敬を浮かび上がらせるという手法を取っている。

 ちなみに、弟子たちの行動に理解を示す幕府天文方の高橋景保(中井・二役)は、後に、国禁である日本地図などを日本国外に持ち出そうとした「シーボルト事件」に関与して獄死する。その事実を知ってこの映画を見ると、さらに感慨深いものがある。

 志の輔は、偶然訪れた佐原の「伊能忠敬記念館」で目にした「大日本沿海興地全図」の精度に驚き、落語を創作したらしいが、自分も同じ体験をしたので、その動機はよく分かる。この映画でも、江戸城の大広間で同図が披露された様子が再現されているが、まさに圧巻だった。

 この素晴らしい地図を制作した無名の人々にスポットを当てたところが、この映画(落語)の見どころだが、大河ドラマ誘致の裏側を描いたドラマとして見ても面白い。

 
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