【映画コラム】ロバート・レッドフォードの俳優引退作『さらば愛しきアウトロー』
2019年7月15日
度重なる銀行強盗と16回の脱獄を繰り返しながら、誰もあやめなかった74歳の紳士的なアウトロー、フォレスト・タッカーの“ほぼ真実の物語”。タッカーを演じたロバート・レッドフォードの俳優引退作でもある『さらば愛しきアウトロー』が公開された。原題は「老人と海」ならぬ「老人と銃」だが、けれども銃は使わないという逆説的な意味があるのだ。
監督はレッドフォード主催のサンダンス映画祭で『ア・ゴースト・ストーリー』(17)が注目されたデビッド・ロウリー。レッドフォード全盛期の1970年代の映画を意識してスーパー16フィルムで撮影したという。
さて、実話を基に、老人の犯罪をユーモアを交えて描いた点、あるいは主人公にシンパシーを感じながら彼を追う若い刑事(ケイシー・アフレック)や、主人公に絡む老年女性(シシ―・スペイセク)の存在、ジャズ風の音楽など、この映画はクリント・イーストウッドの『運び屋』とイメージが重なるところが多々ある。
とはいえ、『運び屋』にはイーストウッド独特の暗さがあったのだが、こちらは人生を楽しむ男のホラ話的なものとして、明るさを感じさせる。ここが2人のスターの個性の違いで、88歳のイーストウッドは硬派で頑固な男、82歳のレッドフォードはスマートで軟派な男のイメージを貫いた感がある。
また、この映画の見どころは、誰もあやめない強盗=『ホット・ロック』(71)『スティング』(73)『スニーカーズ』(92)、夢を追い続ける男=『華麗なるギャツビー』(74)『華麗なるヒコーキ野郎』(75)、アウトロー=今回脱獄シーンで引用された『逃亡地帯』(66)『明日に向って撃て!』(69)、馬との絡み=『出逢い』(79)『モンタナの風に抱かれて』(98)など、レッドフォードの過去の出演作がオーバーラップしてくるところだ。
その意味では、ジョン・ウェインの『ラスト・シューティスト』(76)や、スティーブ・マックィーンの『ハンター』(80)同様、俳優ロバート・レッドフォードの集大成として“幸せなラストムービー”だと言えるのではないか。(田中雄二)
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