【映画コラム】二つの国、二人の男の間で揺れる女心を描いた『ブルックリン』
2016年7月2日
1950年代、アイルランドからニューヨークのブルックリンに移住した女性の成長と選択を描き、今年度のアカデミー賞で作品、主演女優、脚色の各賞にノミネートされた『ブルックリン』が公開された。
母と姉を故郷に残し、一人アイルランドからニューヨークへ渡ったエイリシュ(シアーシャ・ローナン)。同郷の女性たちと寮生活を送りながらブルックリンのデパートで働き、夜は大学で簿記を勉強する毎日が始まるが、異国での生活になじめず、ホームシックに陥る。そんな彼女を救ったのが、ダンスパーティーで知り合ったイタリア系の気の良い若者トニー(エモリー・コーエン)だった。
エイリシュがトニーの愛を得、徐々にブルックリンでの生活にもなじんでいく様子はほほ笑ましく映る。そして洗練され、どんどんきれいになっていく彼女を見ていると、この二人が幸せになることを願わずにはいられなくなる。やがて彼らは二人きりで結婚する。
ところが本作のユニークな点は、前半と後半とでは全くトーンが異なるところ。姉の死をきっかけに一時故郷へ戻り、心の安らぎを感じたエイリシュの前に魅力的な男ジム(ドーナル・グリーソン)が現れ、彼女はこのまま故郷にとどまるのも悪くないと思い始めるのだ。
ここからは、果たして故郷か新天地か、二つの国、二人の男の間で揺れる女心やいかにというサスペンスが見どころとなるのだが、男性と女性ではエイリシュの心情や行動に対する思い、引いては映画全体の印象の好悪も大きく分かれる気がする。男性のジョン・クローリー監督と脚本のニック・ホーンビィが、よくぞここまで女性の心理を描いたものだと感心させられた。
また、色鮮やかで華やかなファッションや小物、ニューヨークの下町っ子や移民に愛されたブルックリン(現ロサンゼルス)・ドジャースの存在など、細やかに再現された50年代の生活描写も見どころの一つになっている。(田中雄二)
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