【映画コラム】最先端の仮想現実を描きながら、古風な情緒が感じられる『竜とそばかすの姫』
2021年7月15日
細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に、少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション『竜とそばかすの姫』が7月16日から公開される。
舞台は、過疎化が進む自然豊かな高知の田舎町。17歳の女子高生すず(声:中村佳穂)は、母の死をきっかけに、大好きだった歌を歌うことができなくなり、周囲にも心を閉ざすようになっていた。
ある日、全世界で50億人以上が集う仮想世界「U」と出合ったすずは、「ベル」という名のアバターとなって参加する。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちに、ベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在(声:佐藤健)が現れる。
インターネットや仮想現実の世界に入り込み、アバターとして別の自分になるというのは、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)はもとより、ディズニーアニメの『シュガー・ラッシュ』シリーズやスティーブン・スピルバーグ監督作の『レディ・プレイヤー1』(18)などもあり、決して目新しくはない。
この映画がユニークなのは、現実世界=リアル(田舎町の風景、地味なすず、学園生活、家族や周囲の人々)と仮想世界=ファンタジー(圧倒的な色と光、派手なベル、歌(音楽)、さまざまな仮想キャラクター)を対照的に組み合わせて見せながら、『美女と野獣』をベースに、主人公すずの葛藤と竜の正体探しを描いているところだ。
加えて、例えばスピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』には仮想現実に対して懐疑的な部分があったが、細田監督は、インターネットが持つ可能性をポジティブに捉えていることがうかがえた。
ところが、最先端の仮想現実を描きながら、話の中心には、少女たちの純情な心根も含めて、どこか古風な情緒が感じられるのが面白い。
実際、偶然同時期に公開され、実写とアニメの違いこそあれ、17歳の女子高生の厳しい現実を女性監督が描いた『17歳の瞳に映る世界』を見た後でこの映画を見ると、すずをはじめとする、高校生たちの姿は、細田監督のような大人(男性)が抱く娘や若者の理想像なのではないのかとも思える。だが、甘いと言われても、この映画の方に救われる思いがするのは確かだ。(田中雄二)
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