【映画コラム】自由を奪われた者の壮絶な体験を描いた『それでも夜は明ける』
2014年3月8日

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 1841年、ニューヨーク在住のバイオリン奏者で“自由黒人”のソロモン(キウェテル・イジョフォー)は、演奏旅行の帰途にワシントンで誘拐され、奴隷商人を介して南部の農園に売られてしまう。

 農園主たちから差別や虐待を受けながら生き抜いたソロモンの12年間の苦闘を、実話を基に描いた『それでも夜は明ける』が7日から公開された。

 『マンディンゴ』(75)『ジャンゴ 繋がれざる者』(12)そしてテレビシリーズ「ルーツ」(77)など、これまでも米南部の農園での黒人奴隷の受難を描いた作品はあったが、本作の斬新な点は自由を保障された黒人を主人公にすることで、単なる奴隷の話ではなく、ある日突然連れ去られ自由を奪われた者の壮絶な体験談として描いているところ。それ故、我々の身近にも起こり得る恐怖として感情移入することができる。

 また、どんなに虐げられても決して自由人としての誇りを失わないソロモンと屈折した心を持った白人農園主たち(マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ)を対照的に描くことで、人間の尊厳と心の闇にも肉迫している。

 さらに本作の秀逸な点は、黒人奴隷内にも階級差や差別があったことを知らしめ、差別問題の根深さを明らかにしたところにある。

 ラストでソロモンは自由を取り戻すのだが、その姿を見ても手放しでは喜べない苦さが残る。なぜなら農園に残された黒人奴隷たちは、その後も虐待され、屈辱を受けながら一生を終えたであろうことが想像できるからだ。

 だからこそソロモンは本作の基になった体験記を贖罪(しょくざい)の意味を込めて書き残したに違いない。奴隷たちが「私が死ぬときは天国に行きたい」と歌う黒人霊歌「ロール・ヨルダン・ロール」が心に響く。

 こうしたアメリカの闇の歴史を大スターのブラッド・ピットがプロデュースし、イギリス出身ではあるが黒人のスティーブ・マックィーンが監督したことの意義は大きい。

 先ごろ発表されたアカデミー賞で本作は作品賞、脚色賞(ジョン・リドリー)、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)を受賞。黒人監督の作品が初めて作品賞に輝き、ピットがプロデューサーとしてオスカー像を手にしたことが話題となった。本作の受賞はハリウッドが新たな変革の時代に入ったことを意味していると言っても過言ではないのだ。

 授賞式会場に『野のユリ』(63)で黒人初の主演男優賞を受賞した先駆者シドニー・ポワチエの姿があったことも象徴的だった。(田中雄二)

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