【映画コラム】加賀まりこと塚地武雅が本当の親子のように見えてくる『梅切らぬバカ』
2021年11月11日
年老いた母と自閉症の息子が地域との不和や偏見にさらされながら、自立の道を模索する姿を描いた『梅切らぬバカ』が、11月12日から公開される。
山田珠子(加賀まりこ)は占い業を営みながら、自閉症の息子・忠男(通称チューさん=塚地武雅)と暮らしている。庭に生える梅の木はチューさんにとっては亡き父の象徴だが、その枝は私道にまで伸びていた。
隣に越してきた里村茂(渡辺いっけい)は、通行の妨げになる梅の木と予測不能な行動をとるチューさんを疎ましく思うが、里村の妻子(森口瑤子、斎藤汰鷹)は、珠子やチューさんと交流するようになる。
珠子は自分がいなくなった後のことを考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームにチューさんを入居させる。ところが、環境の変化に戸惑うチューさんはホームを抜け出し、ある事件に巻き込まれてしまう。
不思議なタイトルは、対象に適切な処置をしないことを戒めることわざ「桜切るばか、梅切らぬばか」に由来し、人間の教育においても、桜のように自由に枝を伸ばすことが必要な場合と、梅のように手を掛けて育てることが必要な場合があることを意味している。
この映画は、この手の映画にありがちな、きれいごとで描いたり、安易なハッピーエンドにはしていないところがリアルだ。自分の身内にも知的障害がある者がいるので、一つの物に固執するチューさんの行動パターンや、近隣住民の反応、家族のやるせない気持ちはよく分かる。
そして、実際のところ、この親子のような障害者のいる家族の日常は答えがでないまま続いていくのだし、奇跡のような劇的な変化も訪れはしないのだから…。
とはいえ、それを見せるだけでは観客が暗たんたる気持ちになるので、親子のユーモラスなやり取りや、隣の一家の対応の変化で救いを持たせてバランスを取っている。
塚地が『レインマン』(88)のダスティン・ホフマンに負けず劣らずの演技を見せ、大ベテランとなった加賀が見事にそれを受け止めている。
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