事実は小説よりも奇なりの実話を映画化した『ドリームプラン』『ボブという名の猫2 幸せのギフト』【映画コラム】
2022年2月24日
『ドリームプラン』
女子プロテニス界の歴史を変えたともいわれる、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父である、キングことリチャード(ウィル・スミス)の生き方を中心に、ウィリアムズ一家の歴史を描く。
テニスは未経験のリチャードだが、壮大な計画書(ドリームプラン)を作成し、娘たちを一流のテニスプレーヤーにすることを第一義として行動する。その立案力と実行力は確かにユニークであり、しかもわれわれは、彼らが成功したことをすでに知っている。
だから、その結果の方に目を奪われて美談のように感じるのだが、実は見方を変えれば、リチャードと妻(アーンジャニュー・エリス)の子どもたちへの接し方は、一歩間違えれば、あるいはもし彼らが失敗していたら、“毒親”や虐待の類いとして捉えられてもおかしくはない。実際に、この映画にも、そう誤解されるシーンがある。
例えば、日本でいえば、漫画『巨人の星』の星一徹や、プロボクシングの亀田兄弟の父・史郎のことを思い出す。
ただ、この映画は、そうしたリチャードの娘たちへの屈折した愛情表現を描くと同時に、彼が決して聖人君子ではなく、多くの矛盾を抱えた頑固で気難しい男であることも描いているから、単にユニークな成功者の話では終わらない。その根には差別や貧しさの問題が横たわっているからだ。
製作も兼ねたスミスにとっては、この複雑な性格を持ったリチャード役は、実にやりがいがあるものだったと思われる。
しかも、リチャードの独特な人生訓を聞き、姉妹を演じたセミ・シングルトンとサナイヤ・シドニーの見事なテニスのシーンや、黒人主体の話を見ていると、この映画は、最近目立つ“主張するブラックムービーの1本”という見方もできるのだ。
そう思わされるのは、黒人監督のレイナルド・マーカス・グリーンがこの題材を手堅くまとめて、144分という上映時間を決して長くは感じさせなかったことも大きいだろう。
先ごろ公開された、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』のリー・ダニエルズ監督は、自作やこの映画について、「いつの時代にも、語られるべき黒人の物語や、ヒーローたちの素晴らしい物語はあると思う。今はそういう物語が作れる状況になって、それはとてもうれしいことだ」と語っていた。
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