【映画コラム】アメリカ映画お得意の告発劇『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
2021年12月16日
「デュポンの工場からの廃棄物で土地が汚染され、190頭もの牛が病死した」。農場主のウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)の悲痛な訴えから始まった、米ウエストバージニア州のコミュニティを蝕む環境汚染問題。弁護士のロブ・ビロット(マーク・ラファロ)が10数年にわたってデュポンを相手に繰り広げた闘いの軌跡を描く『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』が、12月17日から公開される。
ラファロが製作も兼任し、トッド・ヘインズを監督に指名したという。キャンプのほか、妻役のアン・ハサウェイ、上司役のティム・ロビンス、地域弁護士役のビル・プルマンらも、それぞれ好演を見せる。
この問題は、工場から流出した化学物質ペルフルオロオクタン酸(PFOA)が混じった飲料水が原因で、住民ががんなどの健康被害を受けたとするもの。PFOAはフライパンの加工などに使われるフッ素樹脂「テフロン」の製造過程で使われる。
先に公開されたジョニー・デップ主演の『MINAMATA-ミナマタ-』で描かれた水俣の住民とチッソとの関係、あるいは原発と地域住民など、企業から実害を受けながら、その企業の恩恵にあずかって生活をしているから泣き寝入りをせざるを得ないという理不尽な例は後を絶たない。実在の人物であるこの映画の主人公ビロットは、そうした矛盾に敢然と立ち向かったわけだ。
アメリカ映画が得意とするものの一つに、アメリカという国や社会が犯した悪事について、自浄作用を発揮しながら、人々に知らしめるというパターンがある。これまでも映画の力を利用して、さまざまな事象が告発されてきた。
その上、この映画は、昔話ではなく、ごく最近の出来事を克明に描いているのだから恐れ入る。しかも、ちゃんと娯楽映画として成立させているのだ。
自分がアメリカ映画を好きな理由の一つは、多分こうした部分に寄るところが大きいのだと改めて感じた。実際のところ、自分はこの事件に関しては全くの無知だったのだから。
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