ユニバーサルお得意の動物パニック映画の系譜を継いだ『ビースト』 夏、青春、淡い恋、SF、ノスタルジー…定番の要素を組み入れた『夏へのトンネル、さよならの出口』【映画コラム】
2022年9月9日
『ビースト』(9月9日公開)
別居中だった妻をがんで亡くした医師のネイト・ダニエルズ(イドリス・エルバ)は、2人の娘との関係を修復するため、ニューヨークから、妻と出会った思い出の地である南アフリカへ長期旅行に出掛ける。
現地で狩猟禁止保護区を管理する旧友の生物学者マーティン(シャールト・コプリー)と再会し、広大なサバンナに出かけたネイトたちだったが、そこには密猟者の魔の手から生き延び、人間に憎悪を抱くようになった凶暴なライオンが潜んでいた。
アフリカの広大なサバンナを舞台に、凶暴なライオンに襲われた一家の父親が、娘たちを守るために戦う姿を描いたサバイバルアクション。
ライオンと対峙(たいじ)する父親役がドウェイン・ジョンソンならば当たり前だが、エルバというところに新味がある。監督はアイスランド出身のバルタザール・コルマウクル。
この映画は、父と娘の絆の回復劇と動物パニックを融合させているが、製作側は「ライオン版の『クジョー』」を狙ったのだという。確かに、スティーブン・キング原作の『クジョー』(83)は、狂犬病になったセントバーナードが人間を襲う話で、主人公の母と子は、この映画と同じように、車の中に閉じ込められていた。
ところで、この映画のビースト=ライオンは、実物ではなくCGで、狂暴なのだが、なぜかあまり怖さを感じない。それに彼が狂うのは、ハンターたちの密猟が原因で、いわば彼も被害者なのだから、いくら暴れてもそれほど憎々しげには見えないところがあるのだ。
それがこの映画のちょっとした弱点で、同じくユニバーサル製作で、動物が引き起こす理不尽な恐怖を描いた『ジョーズ』(75)との違いだ。人間の罪が原因という意味では、劇中で(意図的に?)長女がTシャツを着ていた『ジュラシック・パーク』(93)の方が近いのかもしれない。
とはいえ、ユニバーサルお得意の動物パニック映画の系譜を引き継ぎながら、94分に手堅くまとめて、それなりに面白く見せたところは大いに評価できると思う。そのうち、ユニバーサルスタジオにこの映画のアトラクションができるかもしれない。
余談だが、主人公の旧友を演じたシャールト・コプリー。どこかで見たことがあると思ったら、南アフリカ製作のSF映画『第9地区』(09)で主人公を演じた俳優だった。今回も、舞台が南アフリカということで、監督のたっての希望で出演が実現したのだという。
-
2022年9月1日
わざとデフォルメした日本や新幹線のイメージが面白い『ブレット・トレ... -
2022年8月31日
「幸せな気分で映画を作るのはこんなにいいものなんだ」『さかなのこ』... -
2022年8月25日
ストーリーの着想が面白い『異動辞令は音楽隊!』『オカルトの森へよう... -
2022年8月18日
1986年がよみがえる! 和製『スタンド・バイ・ミー』の『サバカン SABA... -
2022年8月10日
夏の甲子園たけなわの今だからこそ心に響くものがある『野球部に花束を... -
2022年8月4日
ジョニー・デップ好演、改めて人種差別や警察の腐敗について考えさせら... -
2022年7月29日
30年にわたった新旧シリーズが、ついに完結『ジュラシック・ワールド/... -
2022年7月22日
全編が見事なまでに“山崎貴の世界”で構成された『ゴーストブック おばけ... -
2022年7月14日
70年代のB級アクションのにおいがするサバイバル劇『炎のデス・ポリス... -
2022年7月7日
思わず夏の暑さを忘れさせる山岳映画『アルピニスト』『神々の山嶺(い... -
2022年7月1日
それぞれ謎の一端が明かされる『エルヴィス』と『バズ・ライトイヤー』... -
2022年6月22日
ハリウッドのお気楽映画が帰ってきた『ザ・ロストシティ』【映画コラム】 -
2022年6月17日
少女が主人公の対照的な映画『炎の少女チャーリー』『メタモルフォーゼ... -
2022年6月9日
毎日映画を見て過す男が案内する映画の旅『ストーリー・オブ・フィルム ... -
2022年6月3日
作家性にこだわるあまり空回りした『東京2020オリンピック SIDE:A』【映... -
2022年5月26日
“生きること”を強調したところに、この映画の真骨頂がある『トップガン ... -
2022年5月19日
創作活動に共通する苦悩や喜び、そして熱気を描いた『大河への道』『ハ... -
2022年5月16日
『シン・ゴジラ』に続いて、舞台を現代社会に置き換えて再構築した『シ... -
2022年5月12日
訳ありのボクサーを主人公にした、熱き肉体派映画『生きててよかった』...