【映画コラム】カンバーバッチが、複雑なアメリカの西部男を演じた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
2021年11月18日
第34回東京国際映画祭のガラ・セレクションで上映され、Netflixでの12月1日からの全世界独占配信開始に先立って、11月19日から一部劇場で公開される『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。
舞台は1920年代のモンタナ州。カリスマ性があり、威圧的な態度で恐れられている兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)と、対照的に地味な弟のジョージ(ジェシー・プレモンス)のバーバンク兄弟は、大牧場を経営して暮らしていた。
ところが、ジョージが未亡人のローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚して、彼女を牧場に連れてくる。ローズを疑わしく思ったフィルは、ジョージやローズ、さらに大学の休みに牧場を訪れたローズの息子のピーター(コディ・スミット・マクフィー)にも執拗(しつよう)に嫌がらせをする。
やがてローズはアルコール依存症に陥るが、ある秘密を抱えるフィルは次第にピーターと親しくなっていく。
監督は『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン。タイトルの「犬の力」は、旧約聖書の詩篇からの引用で、悪の根源、悪い絆といった意味があるらしい。
この映画は、登場人物それぞれの心の葛藤を描く一種の心理劇だが、直接的ではなく、メタファーを通して、フェティシズムや同性愛といった隠された性癖が明らかになっていくという手法を取っている。
よくいえば、純文学風で、見る者の創造に任せるようなところもあるが、悪くいえば、わざと説明を省いて分かりづらくしているので、回りくどくてもったいぶったような印象を受けるのも否めないし、見ていて最後まで一向に気が晴れない。
ただ、ベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作と聞くと、ヨーロッパの映画人は本当にこういう映画が好きなんだなあと、改めて思う。ロケ先はニュージーランドだが、舞台となったアメリカではこの映画に対する評判はどうなのだろうかという興味が湧いた。
カンバーバッチは、複雑なアメリカの西部男を演じたこの映画に加えて、情報の運び屋となったセールスマンを演じた『クーリエ:最高機密の運び屋』、海兵隊検事を演じた『モーリタニアン 黒塗りの記録』、そしてマーベルヒーローの『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』が公開待機中と、このところ、まさにカメレオン俳優の面目躍如たる活躍ぶりを見せている。(田中雄二)
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