【映画コラム】悪徳総理が普通のおじさんになったら『記憶にございません!』
2019年9月16日
三谷幸喜監督・脚本の最新作『記憶にございません!』が公開された。
史上最低の支持率を記録した総理大臣・黒田啓介(中井貴一)。ある日、一般市民の投げた石が頭に当たり記憶喪失に陥る。側近たちは、国政の混乱を避けるために、事実を隠して黒田に公務を続けさせるが…。
悪徳総理が突然善良で素朴な普通のおじさんになったらどうなるのか、というこの話の骨子は、善良な理髪師が独裁者と間違われる『チャップリンの独裁者』(40)や、善良なそっくりさんが悪徳大統領の影武者となるアイバン・ライトマン監督の『デーヴ』(93)など、いわゆる、よく似た別人による一人二役物から想を得ていると思われる。
また、事故による記憶喪失故の、同一人物による一人二役という点では、マイク・ニコルズ監督、ハリソン・フォード主演の『心の旅』(91)や、最近の『アイ・フィール・プリティ 人生最高のハプニング』(18)にも近いものがある。
その中でも、“生まれ変わった”黒田首相に側近たちも感化されていくところ、素人が政治を行った方がいいという皮肉、本来、政治家にはこうあってほしいという願望を、一種のファンタジーとして描く手法は、『デーヴ』の影響が大きいと感じた。
その『デーヴ』は、もとをたどればフランク・キャプラ監督の『スミス都へ行く』(39)などの精神に行き着くから、三谷監督もその線を狙ったに違いない。それゆえ、風刺や時事ネタは薄くして、政治そのものを喜劇の中で描いている。
現政権をやゆしたとも言われた『新聞記者』とは異なるアプローチだが、それを、映画だからと割り切って面白く見られるか、風刺が物足りないと感じるかで、評価は分かれるところがあるだろう。個人的には、同世代の彼の映画は、毎度自分と好きなものが似ていることを表明されているように思えて、ちょっと気恥ずかしい気もするのだが…。
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