【映画コラム】ただ家が欲しかっただけなのに…『ビバリウム』
2021年3月11日
まるでテレビシリーズの「ミステリーゾーン=トワイライト・ゾーン」や「世にも奇妙な物語」のエピソードに出てきそうな、不条理サスペンススリラー劇『ビバリウム』が3月12日から公開される。タイトルには、生物の飼育・展示用の容器の意味があるらしい。
新居の購入を考えているトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、不動産屋のマーティン(ジョナサン・アリス)から、全く同じミントグリーンの家が建ち並ぶ住宅地「ヨンダー」の9番地を紹介される。
2人が内見を終えて帰ろうとすると、マーティンは車を残したまま姿を消していた。仕方なく2人は自力でヨンダーからの脱出を試みるが、何をしても9番地に戻ってきてしまう。戸惑う彼らのもとに、段ボール箱が届く。中には赤ん坊が入っており、彼らは訳も分からないまま世話をすることになる…。
見ながら、訳も分からないまま迷宮から出られなくなった2人と同じように、絶望感や焦燥感に捉われて、何とも嫌な気分にさせられるのだが、この後一体どうなるのか、この不思議な現象の理由は? という興味が湧いて、ずるずると見続ける羽目になる。それこそが作り手たちの狙いなのだろう。
こういう映画は、シーンの意味を深く意味を考えたり、ストーリーを追ってはいけない。そもそも作り手たちが、分かりやすく…などということは一切考えずに作っているのだから。謎が解けなくて当然なのだ。けれども、そこが面白い。
この映画が持つ、奇妙な感覚や味わい、色遣いなどのデザインは、甚だハリウッド映画らしくないと思いきや、監督のロルカン・フィネガンと脚本のギャレット・シャンリーはアイルランド出身で、この映画は、アイルランドとデンマーク・ベルギーの合作として製作されたとのこと。さもありなん。
この映画を見ながら、同じような味わいを持ち、同じくアイゼンバーグが主演した『嗤(わら)う分身』(14)やドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『複製された男』(13)のことを思い出した。(田中雄二)
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