【映画コラム】逆説的なビートルズへのラブレター『イエスタデイ』
2019年10月12日
昨日まで、世界中の誰もが知っていたザ・ビートルズ。今日は、僕以外の誰も知らない…。そんな不思議な世界を描いた『イエスタデイ』が公開された。
売れないミュージシャンのジャック(ヒメーシュ・パテル)が引退を決意した夜、世界中で謎の停電が発生。その渦中で交通事故に遭ったジャックが目覚めると、何とビートルズが存在しない世の中になっていた。世界中でビートルズの曲を知る唯一の人物となったジャックは、彼らの曲を歌うことで注目され、やがてメジャーデビューの話が舞い込む。
監督ダニー・ボイル、脚本リチャード・カーティスによる何とも愉快なパラレルワールド話。カーティス作品としては、あり得ない話という点でタイムトラベルを扱った『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(13)と通じるところもあるが、大本は主人公が自分のいなかった世界を見るフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』(46)の逆パターンではないかと思った。
そして、ボイル監督が「これはビートルズへのラブレターだ」と語るように、この世にビートルズがいなかったら…という大胆かつ逆説的な発想を描くことで、ジャックが歌うビートルズの曲が新鮮に聴こえ、改めてビートルズの素晴らしさを知らしめる効果がある。だから、エンドロールに流れる“本物のビートルズ”の「ヘイ・ジュード」を聴くと、彼らがいてくれて本当によかったと実感させられて、思わずホロリとするのだ。
くしくも、今年は1969年のハリウッドのパラレルワールドを描いたクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も公開されたが、こうしたあり得ない出来事を見られるのが映画ならではの楽しみに他ならない。また、ここでは詳しく書けないが、ビートルズファンにとっては、思わず涙ぐむような、パラレルワールドならではのうれしいシーンもある。
パテルの好演に加えて、ミュージシャンのエド・シーランが本人役で登場するお遊びも面白いが、ジャックを献身的にサポートするエリ―(リリー・ジェームズ)の存在も高ポイントだ。
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