【映画コラム】大人たちの“遊び心”を刺激する『一度も撃ってません』
2020年7月4日
伝説のヒットマン市川進、74歳。だが、実は彼の正体はハードボイルドを気取り、御前零児(ごぜん・れいじ)を名乗る売れない小説家だった…。18年ぶりの映画主演となった石橋蓮司が、二つの顔を持つ主人公をコミカルかつ渋く演じる『一度も撃ってません』が7月3日から全国公開された。
そんな本作は、石橋に加えて、桃井かおり、岸部一徳、大楠道代という、“原田芳雄の仲間たち”が、監督・阪本順治と脚本・丸山昇一が語るところの、「いい年をしてまだばかをやっている男と女の物語」を見事に体現し、かつて不良だった大人たちの“遊び心”を刺激する。
ハードボイルドスタイルで夜の街をさまよう時代遅れの主人公。こうしたこだわりをかっこいいと見るか、老人の悪あがきと見るか。かっこ悪ければ、ただの自己満足の悪ふざけだが、そうはならないところがこの映画の真骨頂。ハードボイルドもコメディーもできる石橋が見事にその本領を発揮している。
坂本監督は「この映画の主人公は、ぶれないもの、ある種の頑固さを持っている。時代は変わっているのに、まだそれを貫き通そうとしていることが、若い人たちから見れば喜劇に見えるかもしれない。今回は、ある種のカッコ良さとカッコ悪さが共存しているところを目指したが、主人公の傍若無人ぶりや豪放磊落(らいらく)さに憧れる人もいれば、『俺は真面目に生きているのに、何をふざけているんだ』と思う人もいるかもしれない。それはどちらもありだと思う。見終わった後で、そのどちらを持って帰るかはお客さんの判断」と語っている。
また、本作の脚本を書いた丸山が、ドラマ「探偵物語」(79~80)と映画『処刑遊戯』(79)の脚本も書いていることから、本作は、かつて黒澤満がプロデュースした東映セントラルフィルムの諸作をほうふつとさせるところがある。
そこには、ハードボイルドもコメディーも演じられる松田優作の存在があり、本作で石橋が演じた市川進を、「探偵物語」で松田が演じた工藤俊作、あるいは『遊戯』シリーズで演じた鳴海昌平に重ねてみてもすんなりくる気がする。だから、本作を見ながら、1970~80年代に見た映画やドラマの数々を思い出して思わずうれしくなってしまったのだ。
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