【映画コラム】タランティーノのハリウッドへの偏愛に満ちた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
2019年8月27日
クエンティン・タランティーノ監督が虚実を入り乱れさせながら1969年のハリウッドを描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が8月30日から公開される。
本作は、もし、1969年のロサンゼルス(ハリウッド)に、落ち目のテレビ西部劇スターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、彼のスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がいたら…。そして、リックの家の隣にロマン・ポランスキー監督と女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が住んでいたら…という一種のおとぎ話であり、パラレルワールドを描いたと言ってもいいだろう。
物語の骨子は、本作にそっくりさんが登場するスティーブ・マックィーンとバド・エキンズ、あるいは、本作に出演予定だったが亡くなったバート・レイノルズとハル・ニーダムのような、スターとスタントマンとの友情や信頼関係(スター同士のディカプリオとピットがそれを演じる面白さ)に、カルト集団のマンソン・ファミリーによるシャロンの惨殺事件の顛末(てんまつ)を絡めたもの。
この時代から活躍していたアル・パチーノ、ブルース・ダーンのほか、“タランティーノ一家”のカート・ラッセル、マイケル・マドセンらも顔を見せる。
また、映画狂で知られるタランティーノが、自らの少年時代への追憶を込めて描いているためか、テレビに映る「FBI」や「マニックス」などのドラマ、カーラジオから流れる「ミセス・ロビンソン」「サークル・ゲーム」「夢のカリフォルニア」といったヒット曲をはじめ、マニアックな小ネタが満載されている。
それは、例えば、虚の部分では、リックが『大脱走』(63)でマックィーンが演じたヒルツ役の候補になっていた。ブルース・リーとクリフ(ピット)が対決した。サム・ワナメイカーがリックに演技指導をした。リックがイタリア産のマカロニ・ウエスタンのスターになった…など。これらはタランティーノ流のお遊びであり、大笑いさせられる。
一方、これらは虚実がはっきりしないが、シャロンが出演作『サイレンサー破壊部隊』(68)を映画館でうれしそうに見たり、リーからアクションを習ったり、夫のためにトーマス・ハーディの『テス』(ポランスキーが79年に映画化した)の本を買う姿も映る。こちらは彼女のその後の運命を知っているから、見ていてちょっと切なくなる。
-
2019年8月19日
【映画コラム】エルトン・ジョンの半生をファンタジックに描いた『ロケ... -
2019年8月12日
【映画コラム】日本の近代史を総括するドキュメンタリー映画『東京裁判』 -
2019年8月3日
【映画コラム】現実と空想世界が交差する二重構造『マーウェン』 -
2019年7月27日
【映画コラム】数学的な見地から戦艦の建造や構造を描いた『アルキメデ... -
2019年7月20日
【映画コラム】今度の舞台は雨が降り続く東京『天気の子』 -
2019年7月15日
【映画コラム】ロバート・レッドフォードの俳優引退作『さらば愛しきア... -
2019年7月13日
【映画コラム】ウッディの選択と決断を描いたシリーズ最終章『トイ・ス... -
2019年7月6日
【映画コラム】ほら話や寓話を聞いているような気分になる『ゴールデン... -
2019年6月29日
【映画コラム】弁当作りを「喜」や「楽」に変える工夫とは『今日も嫌が... -
2019年6月22日
【映画コラム】現代にも通じる、知られざる歴史を描いた『ある町の高い... -
2019年6月15日
【映画コラム】女性の主張や生き方の変化を象徴する実写映画化『アラジン』 -
2019年6月8日
【映画コラム】「怪獣映画を見た!」という気分にさせてくれる『ゴジラ... -
2019年6月1日
【映画コラム】認知症の父と家族との7年間を描いた『長いお別れ』 -
2019年5月25日
【映画コラム】青春コメディー+ミュージカル+ゾンビ=『アナと世界の... -
2019年5月18日
【映画コラム】ドキュメンタリーと劇映画を融合させた『アメリカン・ア... -
2019年5月11日
【映画コラム】映画界が本気で高齢化社会に目を向け始めた『初恋~お父... -
2019年4月27日
【映画コラム】仕事と家庭とのバランスを見つける闘いを描いた『パパは... -
2019年4月20日
【映画コラム】14歳の少年が体だけ大人になって『シャザム!』 -
2019年4月15日
【映画コラム】ドラッグ依存症の根深さを描いた『ビューティフル・ボーイ』