【映画コラム】無名の男が見せる一世一代の晴れ舞台 『太秦ライムライト』

2014年8月16日 / 15:35

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 約半世紀の間、東映で“無名の斬られ役”として活躍してきた福本清三の初主演映画『太秦ライムライト』が、カナダのファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞と主演男優賞を受賞した。これを受け、16日から都内のシネマート六本木で上映される。

 本作は、チャールズ・チャプリン監督、主演の『ライムライト』(52)を下敷きに、斬られ役専門の老優・香美山清一(福本)と新人女優(山本千尋)との師弟関係を中心に描いているが、劇中の香美山と実際の福本の人生が重なり合い、まるでドキュメンタリーを見ているような印象を抱かされる。

 福本のせりふ回しは決してうまくはないし、滑舌も悪く重要なせりふが聞き取れないシーンもある。落合賢監督は「主役を立てることが体に染みついていて、撮影が始まると必ず(カメラの)フレームの外の方に移動する」と嘆いた。これらのエピソードは福本がスターになれなかったのも仕方がないと思わせるものがある。

 だが、本領の殺陣はもとより、夜、木刀を手に、一人セットの片隅で斬られる瞬間の稽古をする姿など、福本が無言で見せる表情やたたずまいはスターにも負けない光彩を放つ。これぞまさに斬られ役の真骨頂。

 福本は、どうしたら目立つか、少しでも画面に残りたいという役者根性から、顔つきを鋭く見せる独特のメーク、見えの切り方や間、えび反りになって倒れる姿などを開発し、知る人ぞ知る存在に。やがてテレビ番組や新聞記事に取り上げられて幅広く認知され、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(03)に寡黙な侍役で出演して話題となった。「5万回斬られた男」の異名を持つが、本人は「いくらなんでもそりゃあ大げさでっせ」と照れる。

 本作は、著書のタイトルにもなった「どこかで誰かが見ていてくれる」という言葉を胸に、頑張り続けてきた無名の男が見せる一世一代の晴れ舞台。一生懸命に努力をすればそれは必ず報われる。そんな奇跡を信じてみたくなる映画だ。(田中雄二)


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