【映画コラム】 落語とは逆のパターンで楽しませる『トワイライト ささらさや』

2014年11月8日 / 19:20

(C) 2014「トワイライト ささらさや」製作委員会

 ファンタジーとミステリーを融合した加納朋子のベストセラー小説『ささら さや』を映画化した『トワイライト ささらさや』が8日から公開された。

 落語家の夫ユウタロウ(大泉洋)を交通事故で亡くしたサヤ(新垣結衣)は、生後間もない赤ん坊を抱えて途方に暮れるが、不思議な力に導かれ、のどかな田舎町“ささら”で暮らすことになる。そんな彼女の前に、成仏できないユウタロウが他人の体に乗り移って現れる。

 本作の見どころは、ユウタロウに乗り移られた落語の師匠(小松政夫)、旅館の老おかみ(富司純子)、ささら駅の駅員(中村蒼)、言葉を失った少年(寺田心)らが、語り口やしぐさだけがユウタロウになるというシーン。そこに、大泉ならこう演じるだろうというイメージが重なり、面白さが倍加する。落語家が主人公でありなから、一人の演者が複数の人物を演じる落語とは逆のパターンで楽しませようという趣向。小松と富司の演技が絶品だ。

 そして成仏できないユウタロウの姿から、生と死のはざま、死者との対話といったテーマが浮かび上がり、町の人々と触れ合う中で母親としてたくましく成長していくサヤの姿が見る者の心を打つ。また、次第に明らかになるユウタロウと父親(石橋陵)の関係もストーリーの鍵を握る。

 もう一つの見どころは、ささらに見立てて秩父で撮影された、のどかで不思議な架空の町の風景だ。時折映る町の遠景はミニチュアのようにも見えるが、カメラにシフトレンズを付けて実景を撮影するとこのような効果が現れるという。

 ところで、エイリアンや悪霊が他人に乗り移るというのはSFやホラー映画の常とう手段。本作のような“ほのぼの系”は意外に少ないが、古くは『幽霊紐育を歩く』(41)とリメーク作の『天国から来たチャンピオン』(78)や『オールウェイズ』(89)『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)などが思い浮かぶ。

 中でも『ゴースト~』でパトリック・スウェイジに乗り移られた霊媒師役のウーピー・ゴールドバーグは、その演技でアカデミー賞の助演賞に輝いた。となると、本作の富司も来年の賞レースをにぎわせることになるかもしれない。(田中雄二)


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