【映画コラム】キャプテン妻夫木、エース亀梨…野球が人々に希望を与える『バンクーバーの朝日』

2014年12月20日 / 18:18

(C)2014「バンクーバーの朝日」製作委員会

 戦前のカナダに実在した日本人野球チームの選手と家族、隣人たちの姿を、実話を基に描いた『バンクーバーの朝日』が20日から公開された。

 19世紀末から戦前にかけて、貧しい日本を飛び出し、一獲千金を夢見てアメリカ大陸へ渡った日本人たち。彼らを待ち受けていたのは、低賃金の肉体労働と激しい人種差別だった。やがてバンクーバーでは日本人街が作られ、野球チーム「バンクーバー朝日」が誕生する。

 本作は、栃木県足利市に巨大なオープンセットを建設し、野球場はもちろん、日本人街、白人街も再現して撮影された。監督は『舟を編む』(13)などの石井裕也。今年は『ぼくたちの家族』と本作で“家族”という難儀なテーマに挑み、成果を挙げた。

 小柄な体格とスピードを生かし、バントと盗塁、ヒットエンドランを駆使した戦法で旋風を巻き起こし、体格に勝る白人チームとも互角以上の戦いを繰り広げたバンクーバー朝日の選手たち。彼らのプレーは、日系移民に生きる希望を与えたが、彼ら自身もグラウンドでプレーしている時だけはつらい現実を忘れて楽しそうに見える。

 そんなバンクーバー朝日のメンバーを演じたのは、エースピッチャーのロイ永西を、小学生時代に日本代表として世界大会に出場し、テレビ番組の野球企画でも活躍中の亀梨和也。キャッチャーのトム三宅を、横浜高校の野球部に所属し、松坂大輔ともバッテリーを組んだ上地雄輔。セカンドのケイ北本を、現在も草野球を続けているという勝地涼。サードのフランク野島を、小中高と野球部に所属した池松壮亮と、つわものぞろい。

 ショートでキャプテンのレジー笠原を演じた妻夫木聡は本格的な野球は未経験だったというが、猛練習の跡を感じさせるなかなかのプレーを見せる。そして監督のトニー宍戸に鶴見辰吾という布陣だ。

 スポーツを扱った映画は、試合や細かいプレーのシーンがリアルでなければ一気に興ざめさせられるが、本作は、彼らのリアルなプレーが功を奏し、あらためて野球の持つ可能性の広さやチームワークの素晴らしさを教えてくれる。最後は彼らが戦争によって離れ離れになるだけに、レジーの「また野球しような」の一言が胸に迫る。

 本作に続いて、2015年の1月17日からは、元高校球児たちが再び甲子園を目指す「マスターズ甲子園」を題材に描いた『アゲイン 28年目の甲子園』が、また1月24日からは、日本統治時代の台湾から甲子園の全国中等学校優勝野球大会に出場した嘉義農林学校野球部を描いた台湾映画『KANO~1931海の向こうの甲子園~』が公開される。シーズンオフは映画館で野球が楽しめる。(田中雄二)


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