【映画コラム】上質なミステリーが堪能できる『誰よりも狙われた男』

2014年10月25日 / 17:06

(C) A Most Wanted Man Limited / Amusement Park Film GmbH (C) Kerry Brown

 今年2月に急逝したフィリップ・シーモア・ホフマンの遺作となったスパイ映画『誰よりも狙われた男』が公開中だ。

 舞台はドイツの港湾都市ハンブルク。小さなテロ対策スパイチームのリーダー、バッハマン(ホフマン)は、悪の根本をつぶすために、長期的な視野に立って行動する。今回もあえてターゲットを泳がせ、彼を利用することで、テロリストの資金支援に関わる“ある大物”を釣り上げようと画策するが…。

 アントン・コービン監督は、引退を考える中年の殺し屋の悲哀を描いた前作『ラスト・ターゲット』(10)同様、本作でも、仕事にこだわるあまり孤独に陥り、空しさを感じる中年男の姿をハードなタッチで描いている。そして、ヘビースモーカーでいつも顔色が悪く、中年太りしたバッハマンを、人間味あふれるキャラクターとして演じ切ったホフマンを見ると、あらためて惜しい俳優を失ったと思わされる。

 ホフマンのほかにも、レイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォー、ロビン・ライト、ダニエル・ブリュールら、多彩な俳優が個性的な演技を披露して目を引く。

 ところで、本作の原作はジョン・ル・カレのスパイ小説。自身もMI6と呼ばれる英国秘密情報部に所属していたル・カレの小説は、これまでも、英国情報部員を主人公にした『寒い国から帰ったスパイ』(65)『テイラー・オブ・パナマ』(01)『裏切りのサーカス』(11)などが映画化されている。

 同じく英国情報部員が活躍する「007シリーズ」のような、派手なアクションシーンこそないが、緻密なストーリー構成で、だましだまされるリアルなスパイ戦が展開するという面白さがある。

 米ソ冷戦時代のスパイ活動とは全く違う、9.11以降のテロ対策を軸とした、現代の情報戦がリアルに描かれた本作。ラストの緊迫感とどんでん返しはなかなかのもの。上質なミステリーが堪能できる。(田中雄二)


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