【映画コラム】幻の音楽フェスティバルをよみがえらせた『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

2021年8月26日 / 07:15

 「ラブ&ピース」を掲げた伝説の音楽フェスティバル「ウッドストック」が開催された1969年の夏。それに呼応するかのように、ニューヨークのハーレムで行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」にスポットを当てたドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』が、8月27日から公開される。監督は音楽プロデューサーとしても知られるアミール・“クエストラブ”・トンプソン。

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 このフェスには、スティービー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ザ・ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、デビッド・ラフィン、ニーナ・シモンら、ブラックミュージックのスターが集結し、ブルース、ソウル、ゴスペル、ポップス、ファンクなど多彩なジャンルの曲を披露した。

 まるで同年のアポロ11号の月面着陸に合わせたかのようなフィフス・ディメンションの「アクエリアス(輝く星座)」、テンプテーションズのリードボーカルのラフィンが熱唱する名曲「マイ・ガール」、ファンキーなスライ、ドラムをたたく若き日のスティービー、ナイトやジャクソンの圧倒的な声量、メッセージ性が強いシモン…。それらを見聴きするだけでも十分に満足できる。

 だが、「ウッドストック」が伝説となったのに反して、それに勝るとも劣らないこのフェスは、その後語られることもなく、記録映像は約50年間、とある地下室で埋もれたままになっていたという。

 今回、50年の時を経てこの映像を初めて見た当時の参加者や観客の証言に時の流れを感じさせられた。中でも、フィフス・ディメンションのマリリン・マックーとビリー・デイビス・ジュニアが、昔の自分たちの姿を感慨深げに見つめるシーンが印象に残った。

 この映画は、フェスの映像に黒人の歴史や文化、思想やファッションを織り込み、「政治の季節」と呼ばれ、「ブラックパワー」が叫ばれた当時の風潮を浮き彫りにしていく。そうすることで、「ウッドストック」よりも、こちらの方が主義主張がはっきりとしたフェスだったことがよく分かるような仕組みになっている。サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門で審査員大賞と観客賞を受賞したのもなるほどと思える内容だ。

 
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