【映画コラム】フランス人監督が描いた“最後の日本兵”の30年間『ONODA 一万夜を越えて』

2021年10月7日 / 07:15

 太平洋戦争終結後も任務解除の命令を受けられず、フィリピン・ルバング島で孤独な日々を過ごし、約30年後の1974年に51歳で日本に帰還した小野田寛郎元陸軍少尉の物語を、フランスの新鋭監督アルチュール・アラリが映画化した『ONODA 一万夜を越えて』が10月8日から公開される。

(C)bathysphere

 44年、陸軍中野学校二俣分校で秘密戦の特殊訓練を受けた小野田(遠藤雄弥)は、劣勢のフィリピン・ルバング島で援軍部隊が戻るまでゲリラ戦を指揮するよう命じられる。出発前、教官(イッセー尾形)から「君たちには、死ぬ権利はないが、必ず迎えが来る」と言い渡された小野田は、何としても生き延びなくてはならなかった。

 72年にグアム島で発見された残留日本兵の横井庄一さんに続いての小野田さん発見のニュースは、当時中学生だった自分にとっても衝撃的なものだった。横井さんは軍人という感じではなかったが、小野田さんはもろに軍人といった風情があり、一体この人はどんな思いで30年もジャングルの中で過ごしてきたのだろうと思ったし、彼を発見した鈴木紀夫という戦後生まれの若者にも興味が湧いた。

 あれから50年近くを経て製作されたこの映画は、恐らく手記や証言などを手掛かりに、想像を交えながら、30年にわたる“謎の日々”を埋めていったのだろうと思われる。その作業を、フランス人の監督を中心に、多国籍のスタッフが行ったことは驚きだったが、逆に日本人が撮ったら、ここまで踏み込んでは描けなかったのではないかとも感じた。

 実際、小野田がどう生き抜いたのかを描いたこの映画の3時間は決して長さを感じさせない。アラリ監督は「これは一種の寓話(ぐうわ)」だと語っているが、小野田が終戦を信じず、陰謀説を唱えるところなどは、悲しくもあるが滑稽にも映る。

 もちろん、この映画で描かれた全てが真実ではないだろうが、先頃公開されたジョニー・デップ主演の『MINAMATA-ミナマタ』同様、こうした事実を掘り起こして知らしめるという点では意義があると思う。

 小野田役の遠藤と津田寛治、部下の小塚金七役の松浦祐也と千葉哲也のダブルキャストも違和感がなく、仲野太賀が演じた鈴木青年もなかなかユニークだった。

 NHKが制作したドラマ&ドキュメント「小野田さんと、雪男を探した男~鈴木紀夫の冒険と死」(18)もあるが、最後は雪男発見にまい進した鈴木さんの数奇な人生も、映画化したら興味深いものができると思う。(田中雄二)


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