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今回は8月20日に公開される邦画の佳作を2本紹介しよう。
優れたミステリーを見るような面白さがある『ドライブ・マイ・カー』
舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島秀俊)は、脚本家の妻・音(霧島れいか)と幸せに暮らしていた。だが、妻はある秘密を残したまま急死してしまう。2年後、喪失感を抱えながら生きていた家福は、演劇祭で演出を担当することになり、広島へ。そこで出会った寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と過ごす中で、家福はこれまで自分が目を背けてきたことと向き合うことになる。
何らかの経緯で女性に去られたり、別れを経験した男性を主人公にした村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、濱口竜介の監督・脚色により映画化。同じ短編集に収録されている「シェエラザード」と「木野」も取り入れている。
この映画は、今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したが、瀧口監督と共同脚色の大江崇允は、この短編集を見事に映画として成立させたものだと感じた。
音が亡くなるまでを描いた約40分のプロローグが東京編で、残りの2時間20分は広島が舞台となる。179分の長尺だが、少しも飽きさせない。全体を貫くテンポがいいのだ。
さらに、心に傷を持つ家福とみさき、家福を愛しながらも裏切りとも思える行動を取る音、そして音を愛す俳優の高槻(岡田将生)の屈折、彼らの心情がだんだんと明らかになってくるところは、優れたミステリーを見るような面白さがある。
また、家福が演劇祭で演出を担当するチェーホフの『ワーニャ伯父さん』と、家福自身の心情が重なって見えてくるところも秀逸だ。