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『そして、バトンは渡された』(10月29日公開)と、2年前に撮影され、コロナ禍で公開が1年延期になった『老後の資金がありません!』(10月30日公開)という、前田哲監督による家族を描いた2本の映画が、ほぼ同時に公開される。
『そして、バトンは渡された』
第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名小説を映画化。
血のつながらない父親の間をリレーされ、4回も名字が変わった優子(永野芽郁)。今は料理上手な義理の父・森宮さん(田中圭)と2人で暮らす彼女は、さまざまな悩みを抱えながら、いつも笑顔を絶やさず、卒業式のピアノ演奏の練習に励んでいた。そんな彼女の前に、ピアノが上手な同級生の早瀬(岡田健史)が現れる。
一方、何度も夫を変えながら自由奔放に生きる梨花(石原さとみ)は、泣き虫な義理の娘みぃたんに精いっぱいの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘の前から姿を消す。
中盤までは、この二つの物語が並行して描かれるのだが、やがて二つは微妙に絡み合い、最後はある秘密とうそが明らかになる、という流れ。よく考えたら設定に無理や矛盾があり、一歩間違えたら犯罪と言ってもおかしくない行為も出てくるのに、“いい話”を見たような気にさせるところが、“だまし映画”の真骨頂だ。
前田監督は、この映画に「愛とは、見えないところで見守ること」「見た人が幸せな気持ちに包まれる映画に」という思いを込めたというが、その点は達成できたのではないか。
要はこの映画は、一見、不運に思えたことが幸運につながったり、その逆だったりする。幸運か不運かは容易に判断しがたい、という「人間万事塞翁が馬」的な話なのだ。
また、一見、わがままなくせ者に見えて、実は…という展開は、前作の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)の主人公・鹿野(大泉洋)にも見られたが、今回もある人物にそれが当てはまる。こうした設定は、前田監督と脚本の橋本裕志の好みなのだろう。
『キネマの神様』に続いて永野がチャーミング。彼女が流す大粒の涙が印象に残った。