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黒澤明監督の『羅生門』をほうふつとさせる『最後の決闘裁判』
1386年、百年戦争のさなかの中世フランスを舞台に、実際に行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした歴史ミステリー。アカデミー脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(97)以来、久しぶりにマット・デイモンとベン・アフレックが共同で脚本を執筆。デイモンはエグゼクティブプロデューサーも兼任した。監督はリドリー・スコット。
騎士ジャン・ド・カルージュ(デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友のジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)から性的暴行を受けたと訴えるが、目撃者は誰もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。
物語は3章に分かれ、カルージュ、ル・グリ、マルグリット、それぞれの視点や言い分が映される。これは、同じシーンを別の角度から撮って表現することができる映画ならではの手法だが、黒澤明監督の『羅生門』(50)をほうふつとさせる。
『羅生門』も、平安時代の京を舞台に、ある武士の殺害事件の関係者や目撃者が食い違った証言をする姿をそれぞれの視点から描いているからだ。
実際、エリック・ジェイガーの原作を読んだデイモンは、スコットの監督デビュー作である『デュエリスト/決闘者』(77)を思い浮かべて、彼とコンタクトを取った際に、『羅生門』について熱く語ったという。
スコットは「ある行為が三度描かれ、三つの違った視点から語られる。登場人物は同じ時間を過ごしたはずなのに、証言は微妙に異なる。観客も何が真実なのか、誰が本当のことを語っているのか分からなくなる。私はそこに引き付けられた」と語っている。
つまり、この映画は「決闘裁判」というヨーロッパの旧習と『羅生門』的な作劇法を結びつけたところがユニークなのだ。また、そこに寒々しい風景、合戦シーンや決闘シーンの派手なバイオレンスやスペクタクルを盛り込むあたりがスコットの面目躍如だともいえるだろう。
そして、ひたすらメンツにこだわる2人の男の嫌らしさに比して、マルグリットをしっかりと主張をする女性として描いているところに、中世を舞台にしながら現代的な視点が感じられる。