【映画コラム】根も葉もある絵空事の集大成 大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』

2020年7月30日 / 06:30

 新型コロナウィルスの影響により公開が延期となっていた大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が、7月31日から全国公開される。

(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

 大林監督は、CMディレクターから映画界に入り、故郷の広島県尾道市を舞台にした『転校生』(82)『時をかける少女』(83)『さびしんぼう』(85)の“尾道三部作”などで知られる。ファンタジー作品に定評があり「映像の魔術師」の異名を取った。

 近年は、“大林的戦争三部作”となる『この空の花-長岡花火物語』(11)『野のなななのか』(14)『花筐/HANAGATAMI』(17)を発表し、自らの戦争へのこだわりを強く主張した。

 2016年にステージ4の肺がんで余命3カ月の宣告を受けてからも創作意欲を失わず、昨年11月に行われた第32回東京国際映画祭では「あと30年、映画を作りたい」と語っていたが、くしくも、本作の公開予定日だった4月10日に82歳で亡くなった。

 本作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は、オープニングタイトルに「映像純文学の試み」と出る。つまり、これは脱大衆の芸術作品であり、壮大な“私映画”であることを宣言しているのだ。

 そんな本作の舞台は、閉館の時を迎えた尾道の海辺にある映画館「瀬戸内キネマ」。最終日のオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」を見ていた3人の若者が、突如発生した稲妻の閃光(せんこう)に包まれ、スクリーンの世界の中に入り込んでしまうところから始まる。

 大林監督が20年ぶりに故郷・尾道で撮影し、サイレント、トーキー、アクション、ミュージカルと、さまざまな映画表現で近代日本の戦争の歴史をたどっていく。前作『花筐/HANAGATAMI』の原作者・檀一雄に続いて、今回は中原中也の詩を盛んに引用しながら、自身の戦争への思いをさらに強く押し出している。

 そして、前作同様、約3時間の間、ストーリーを無視した、何でもありの映像のコラージュを見せられる。だが、時にはあきれ、へきえきさせられ、気恥ずかしさすら覚え、これは死期の迫った老人の幻想なのでは、などと思いながらも、つい見入ってしまうところも前作同様だった。そこには、狂気すら感じさせるようなパワーがあふれ、時折、はっとさせられるようないいシーンやせりふもあったからだ。

 舞台は、久しぶりの尾道。過去の大林映画に出ていたさまざまな俳優たちも現れる。まるで大林監督自身が企画し、由縁の者に長い遺言を代読させた“生前葬”のような感じすらした。

 
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