【映画コラム】室蘭を舞台にした映像詩集『モルエラニの霧の中』

2021年2月5日 / 07:30

 昨年の9月から、館内工事のため一時休館していた都内の岩波ホールが2月6日から再開する。その第1弾として上映されるのが、北海道・室蘭出身の坪川拓史監督が、5年越しで完成させた力作『モルエラニの霧の中』だ。

(C)室蘭映画製作応援団2020

 この映画は、坪川監督自身が室蘭で出会った人々の実話を基に、実際の場所で、時にはエピソードに登場する本人も出演しながら撮影された「街の自画像」のような映画。「ここに生きる人々の息遣いを映画に残したい。そして、この街を知ってほしい」という監督の強い願いを聞いた、街の人たちが結集して製作された。

 タイトルの「モルエラニ」とは、アイヌ民族の言葉で「小さな坂道を下りた場所」を意味し、室蘭の語源の一つとも言われているという。

 そんなこの映画は、[第1話]冬の章「青いロウソクと人魚」、[第2話]春の章「名残りの花」、[第3話]夏の章「しずかな空」、[第4話]晩夏の章「Via Dolorosa」、[第5話]秋の章「名前のない小さな木」、[第6話]晩秋の章「煙の追憶」、[第7話]初冬の章「冬の虫と夏の草」という、7話連作のオムニバス形式で描かれる。

 それぞれの話と登場人物が微妙に関連し合い、まるでメビウスの輪のように、曲がりくねりながら、ぐるりと一回りしてきて最後につながる。だから、見終わったときに「あー、そうだったのか」と合点がいって何だかうれしくなる。

 観念的で難解な映画かと思いきや、さにあらず。春夏秋冬の美しい風景、ノスタルジックな映像、子どもたちの歌声、消えゆく建物に、古時計、レコード、桜の木、カセットテープ、冬虫夏草といった象徴的なアイテムをちりばめながら構成された一種の映像詩集、あるいは寓話(ぐうわ)集のようでもあり、純文学風の室蘭のガイド映画といった趣もある。不思議なことに3時間34分を決して長く感じない。

 コロナ禍で公開が延期となったこともあり、その間に出演者の大杉漣、佐藤嘉一、小松政夫が逝去した。記憶、約束、生と死、再生などをテーマにした映画であるだけに、謎の老女役で登場する大ベテランの香川京子の存在も含めて、そこに映る彼らの姿には特別な感慨を抱かされる。(田中雄二)


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