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『異動辞令は音楽隊!』(8月26日公開)
部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を選ばない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司(阿部寛)。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡される。
嫌々、音楽隊を訪れた成瀬を待っていたのは覇気のない隊員たち。ドラム担当となった成瀬は仕方なく参加するが、刑事だった頃がなかなか忘れられない。そんな中、音楽隊廃止の話が持ち上がり、アポ電強盗事件も進展を見せる。
ドラムの阿部をはじめ、清野菜名(トランペット)、高杉真宙(サックス)、板橋駿谷(チューバ)、渋川清彦(パーカッション)、酒向芳(隊長・指揮者)らが、音楽隊のメンバーを演じ、捜査一課の若手刑事を磯村勇斗が演じる。
監督・脚本は『ミッドナイトスワン』(20)の内田英治。内田監督は、YouTubeで見た愛知県警音楽隊の演奏動画から着想を得て、物語を書き上げたという。そのため、この映画のロケは豊橋市などで行われた。
物語の骨子は、時代に取り残された男=成瀬の再生劇。そこに、彼を取り巻く音楽隊員、刑事、家族の点描も入れ込んでいる。何といっても、ドラム未経験だという阿部が、だんだんとさまになり、それと重なるように、成瀬の進境が変化していく様子を表現しているところが面白い。
さて、刑事ものと音楽ものを合体させ、音楽隊の様子とアポ電強盗事件の捜査を同時進行させたアイデアはユニークだが、多少もたつくところもあるのは否めない。
とはいえ、同じく楽団員に扮(ふん)した俳優たちが実際に楽器を演奏したという水谷豊監督の『太陽とボレロ』と比べると、話の転がし方や人物の見せ方、音楽を媒介とした群像劇としては、この映画の方が上だと感じた。
そして、ラストに流れる「イン・ザ・ムード」をはじめ、彼らが演奏する曲を聴きながら、改めて音楽が持つ効用を知らされた思いがした。また、主題歌をOfficial髭男dismの楢崎誠が担当し、音楽隊の演奏シーンでカメオ出演もしている。